自分と出会う話
自分の容姿が好きではない。
一般的にも下の上、大目に見ても中の下とかそのくらいだと思う。
でも美容サロンに行くのは好きだ。
形として残らないものにお金を使う行為をもったいないと思う人もいて当然なのだけれど、私はエステやネイルやまつげエクステやヘッドスパや腸揉みが好きだ。他にもある。沢山ある。年がら年中ホットペッパービューティーを見ている。
なぜ、そこまで好きなんだろう。
施術が終わって鏡を見たときに、その先の自分に出会えたような気分になる。
そもそも美容サロンに行くようになったのは、一昨年、小さい頃からずっとコンプレックスだった深爪の矯正に勇気をだして行ってみたことがきっかけだった。いつも爪のことを言われるのがいやだった。たった一回の施術で「当たり前に見せられる爪」になったその日の夜は、何度も何度も爪を眺めては、お風呂の中で、ベッドの中で、じんわり涙を浮かべたりした。しばらくの間、寝ても覚めてもずっと爪を見ていた。爪に話しかけてみたりもした。たぶん、舐めもした。無味だった。
人生が、たしかに明るくなった瞬間だった。
自分の爪を好きになれる日が来た。
行くまではスタッフのお姉さんに笑われるのではないかと思っていたのだが、二人三脚のごとく全力で爪の育成を支えてくれた経験も最高の収穫だった。コンプレックス勢にとっては、サロンに行くまでが一番の難関だといっても過言ではない。
私は痩せているどころかむしろ太っているし、鼻はぺちゃんこ、毛質も多くて硬く、肌も全く透明感がない。つまりは美容サロンに行ったところでどうにかなるわけでもないし、上の上になれるわけでもない。だから一般的に美人と呼ばれるような外見には到底届かないのだけれど、それでも変わった自分を見て、なんだか自分のことが好きになれるのだ。ちょっと!可愛いじゃんか~!って鏡に向かって言いそうになることもある。
これだ。
「ちょっと!可愛いじゃんか~!」
これが大事だ。
自分を好きになれた女の顔は強い。
自撮りだって可愛く写るようになる。仕事もうまくいっちゃったりする。茶柱も立つ。
「自分と向き合えたやつは強い」、ここへ帰結するのではないか。
ネイルを始めてから生理不順も安定してきた。
え?ちょっといい女感だしてきてない?なんだよ~女性ホルモン多めにサービスしちゃうぞ?お?お?って、きっと生成器官が頑張ってくれたに違いない。
だから声を大にして言いたい。
美容は「自分のため」にやっている。好きでやっている。ね?それならいいでしょ?
ブスが美容サロンに行ってても、どうか温かい目で見てほしい。あわよくば、もし、少し可愛く見えることがあったら「今日可愛くない?」って茶化してあげてほしい。冗談でも、自分自身を好きにならせてくれる力を秘めた言葉をかけてもらえることは、この世に存在する中でもトップを争うほど嬉しいものだ。
誰かに馬鹿にされたら、放っておけばいい。
あなたのことを可愛いと思う人はここにいるし、あなたと一緒に可愛くなっていけたら嬉しい。
「なりたい」を叶えてくれるのが美容サロンではない。
自分と向き合って、自分を好きになるための場所が私にとっての美容サロンだ。
今週もまたエステへ行く。
悩みとともに生きる、それでいいのだ。
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この投稿から二年、私は秋に結婚し、それを機にすべてやめて貯金にまわすようになったものの、冬の健康診断でやばい数値と診断を叩きだして、春から痩味エステ(初めて)に通いはじめ、今月からネイル通いとスキンケアへの投資を再開し、たったさっきここ数年での最低体重を更新した。
一人の成果じゃない。
朝に一杯の水を飲んだだけで、湯船に浸かっただけで、夜をサラダから温野菜に変えただけで、「めちゃくちゃえらいじゃないですか」「頑張りすぎて尊い」と褒めちぎってくれるエステのスタッフさんのおかげだ。なんなら生きてるだけで褒めてくれる。
「最近痩せました?」って聞いてくれるネイルのスタッフさん、「え〜!ネイル可愛すぎません?」って言ってくれるカウンターのBAさん、「絶対肌きれいになりましたよね」ってさらに褒めちぎってくれるエステのスタッフさん。なんなの?みんな裏で?裏で繋がってるの?絶対繋がってるよね?
この人たちのほぼアメときどきムチのおかげで、私は頑張れている。
そして夫も、この自己肯定感爆上げさせ隊の一員だ。
貯金にまわせるはずの月数万を、いつも「いってらっしゃい」って嫌な顔せず背中を押してくれてありがとう。
私の見せびらかしにも、痩せたねとかネイル可愛いねとか肌つるつるだねとかニコニコ褒めてくれてありがとう。
容姿が嫌いで写真が嫌いな私のために、「好きになれるような写真を撮りたい」ってカメラを買ってくれてありがとう。
自分自身を好きにならせてくれる力を秘めた言葉をかけてもらえることは、この世に存在する数多ある言葉に敵わない。ときには、別の人にかけられた呪いを消し去ってくれる。
美容サロンは、そんな自己肯定感爆上げさせ隊の猛者が揃っている。
迷っているなら、私が背中をちょんと押させてもらいたい。