デンマークの流儀:サッカーを楽しむガチすぎるしくみ
「うちのゼミは、サッカーをやっている子は取りません」
ゼミの先生が、よく冗談で言っていた言葉だ。実際にサッカーをやっている子は山ほどいたので、事実ではない。先生の持ちネタのようなもの。
わたしのゼミは「興味のある企業に個人でインタビューを行う」ゼミだった。サッカーをやっている子は大半「Jリーグのチームにインタビューしたい!」と言って聞かない。
もれなくわたしの同期にも、サッカー以外に無関心の子がいた。それだけ人を夢中にさせるスポーツ。先生はその高い中毒性を心からよくわかっているからこそ、サッカーをやっている子は取らないと言っていた。この先生のサッカー理論はわからないようで、わかる。
サッカーを好きな人は本当に好きだ。いや、別にサッカーに限らないんだろうけれど、なんだろう、あの「生活がサッカー中心に回ってます」感。
それは、海を渡っても同じようで、なんならヨーロッパは「本場だぞ」と言わんばかりに、サッカーに熱中し、文字通り寝食を忘れているオトナがいる。そう、わたしのデンマーク人の友達のこと。
いつも部屋にこもってサッカーを見ている2人が「明日12時から、デンマークでいちばん大切な試合なんだよ」と話しかけてきた。
たいてい試合は、18時だと記憶している。たまに夕食をサーブするよう依頼されるためだ。国内試合ということは時差はないはず。なのに12時から始まることを不思議におもい「なんで12時からなの?」と聞いた。
「デンマークで1位と2位のチームの試合なんだよ。」
そう、それはBrøndby IF とFC Københavnの戦い。
どっちも初めて聞いたけど。
そして友達はつづける。
「18時から始めると、みんなお酒を飲みながら見るでしょう?試合結果によって殴り合いが起きちゃう(笑)だから、警察の統制が効くようにこの試合は毎回12時からって決まってるんだよ。」と。
そんな理由で試合を前倒しって、台風が夜に来るって分かってても仕事を切り上げて帰ることができないひと(わたし)とは真逆だ。予測可能な非常事態のとき、人間としての生命力が試されるものである。
「争いを起こさないようにしましょう」ではなくて、
「お酒は飲まないようにしましょう」でもなくて、
「どうせ争いだって起こるし、お酒だって飲むんだから、前倒しにしましょう」
人の習性へ寛容であり、解決する仕組みを解決している姿。それが市や国という大きな単位であることを、愛くるしいと感じた。国が、個人の行動レベルに合わせた仕組みを作る。前のお仕事で企画部にいたので、こういう仕事したかったな、と本当にしびれる。
さて、両チームはともにコペンハーゲンを本拠地としていて、デンマークで上位1、2位。だからこの試合は「コペンハーゲンの戦い(Slaget om København/ Nyklassikeren/New Firm)」や「ダービー」と呼ばれる。因縁の相手らしく、早慶戦・阪神巨人戦のようなものだと想像する。
Brøndby IFの方が古くからあって、デンマーク語で「井戸の町」という意味らしい。昔コペンハーゲンにたくさん井戸があったからだと。日本人の鈴木唯人君(君呼びやめろ)も所属しているようで、急に親近感が湧いた。
一方、FC Københavnは92年に2つのチームが統合してできた比較的新しいチーム。でも統合されたチームのうちの一つは、デンマーク最古のグループだったらしいから、強い理由も納得。2006年、デンマークで初めてチャンピオンズリーグのグループステージ出場。早々にトーナメントから脱落したものの、ホームでは無敗で、マンチェスター・ユナイテッドFCなどに勝利したんだとか。きっとまだ誇りに思っていそうだ。
一緒に見る2人は、敵対チームなので試合前から罵り合っていた。もちろん冗談で、面白おかしい小競り合い。(怒られる)
「FCって名乗ってるけれど、デンマーク語だったらFKにすべきでしょ?(デンマーク語だとFodbold Klub)しかもそれなのに、Copehagenはデンマーク語表記のKøbenhavn。英語なのかデンマーク語なのか統一せんかい!(意訳)」
他方「まあまあ、ぎゃんぎゃんうるさいですが、2位の言うことは黙って聞いていましょう(意訳)」みたいな。
当日11時半頃、2人はそわそわ部屋に吸い込まれていった。
わたしがどちらにも気を遣う準備をして迎えた14:30。
結果は、0ー0の引き分け。
「負けもなし、勝ちもなし、平和な試合だった!」と言いつつ、どこか晴れない顔をしていた。何かに熱中するひとは、愛おしいナ。
参考
誘導されるひとたち。
ニュースが映し出す挑発し合う姿はちょっとガチだった。