『変われない組織は亡びる』(河野太郎・二宮清純) 書評
この本は、お二人の対談形式で、自由民主党が政権交代で野党になる、という頃に書かれたものです。自民党や国会のシステムへの批判から野党のあるべき姿、そして組織、ルールとは、といった内容になっています。今回の書評では、いくつかのフレーズを引用しつつ、ポイントを絞って内容紹介をしていきます。
✴︎前書きより 「河野太郎さんとの、のべ10時間にわたる対談を通じて見えてきたもの、それは組織という名の生命体が生き永らえるためには、刺激と代謝が必要だということである。そして、これは自民党に限った話ではない。」(二宮清純)
1. 自民党の定義
冷戦後は世界が「自由主義、民主主義、資本主義」を唱えるようになりました。その時点で「自民党は何か」を再定義しなければならなかった、と河野先生は述べられています。例えば「小さな政府派vs大きな政府派」と立場を明確にすること、などです。しかし、政権与党か野党か、といったことだけが論点になってしまいました。 もっと理念をはっきりさせることこそが政党というものの意義である、という当たり前のことが忘れられてきてはいないでしょうか?今の政界を見ていても思います。
2. 野党のあるべき姿とは
「政治の世界でも、いったん負けを認める潔さが必要ということですね。そして、新しい政権党に対して、『しっかりやってくれ』と言って、国を委ね、また次の戦いの準備に移っていくべきなのでしょう。」 なんでもかんでも反対するのではなく、潔く負けを認め、野党のは強いリーダーシップを持った人がトップを務めて与党の政策の間違いを果敢に突いていく、そういったことが求められると思います。
3. 決め事を変えられない日本人
印象的な文章がありました。「(欧米人は)ルールというものは、もっと言えば法律というものは、人がよりよく生きるためにあるものだから、不都合なものや不必要なことが生じたら、その場で変えればいいと思っています。憲法だってそうです。 ところが日本人は、ルールを絶対視している。指一本触れちゃいけないと思っている。憲法なんて不磨の大典のように聖域化されている。・・・ルールを作れという教育はあまり受けていません。」これは日本人の本質を突いているのではないでしょうか。改憲に関する論議などを見ていても、理論的な議論の以前に「とにかくルールというものは変えてはならないものである。」という固定観念に捉われすぎている人もいるように思えます。 なんでもかんでも欧米を真似れば良いものではないですが、こういったところは積極的に見習うべきです。そして、河野先生はこのような指摘もされています。「ともあれ、日本人はルールの作り方が下手だと思います。ルールを変えることに対する恐れというか、新しい提案をすると、『混乱が生じるから』と言って手をつけようとしない。その背景には、ルールを変えることによって何か自分たちの既得権益が侵害されるのではないかという、漠然とした恐れがあるように感じられます。」既得権益と政治の世界は切っても切り離せません。そこを少しでも変えていく変革が政治には求められているのではないでしょうか。
4. 本当の保守思想とは
私がこの本の中で最も重要だと思ったのは、この文章です。「伝統を守るというのは何もしないことではなくて、古くからの慣習などのような守るべきものと、ルールのような変えるべきものがきちんと仕分けされた上で、時代に応じて変化していく。イギリスの政治家エドマンド・バークは、保守思想について、『大切なものを守るためには、時代に応じて変わっていかねばならない』と述べています。」 これこそ河野先生の信念を表しているように思います。頭ごなしに改革を否定する人もまだまだいる古い体質の政界で、河野先生は少しでも、組織ごと柔軟になるのが重要ではないか、と常日頃から思われているように感じます。
5. 組織論
この本のメインテーマの1つは組織論です。河野先生のお考えはこの通りです。「組織が大事だとか、いや、個人主義だとか、『AかBか』の議論が好きな人が少なくない。僕はそうした二元論自体が古いと思っているんです。『AかBか』ではなく、『AもBも』という風に考えたい。個人を生かせない組織というのは組織として魅力に欠ける。自己主張と自己中心主義とは別物です。自己主張が許容される組織でないと、組織としても成長もしません。組織を伸ばせる個人の力が必要です。しかし、自己中心的であってはならない。たんにわがままにふるまう個人は認められませんから、組織と人が共存できる、そういう社会でないとダメではないかと僕は思うんです。」個人の良さが最大限に生きるような新しい組織の在り方の必要性は認知されるようになってきましたが、果たしてどれほどまで浸透しているのか、と少し疑問です。柔軟な組織になることこそが、その組織の成長に繋がるのです。
✴︎後書きより 「ガバナンスがきちんとしていない企業や団体、組織は、必ずどこかでおかしくなる。同じように、ガナバンスがきちんとしていない国も長く栄えられるはずがない。・・・日本のガバナンスはこれでよいのか。 何よりも自由民主党、このままでいいはずがない。しかし、いまの自民党は変わっていけるのか。変わるためには何から始めなければならないのだろうか(河野太郎を総裁にする以外に。) そんな思いを二宮清純さんとキャッチボールさせていただいた。お読みいただいた皆さんのご意見を頂戴できれば幸いです。」(河野太郎)
✴︎最後に
野党時代の河野先生のお考えやご姿勢が良く分かる一冊となっております。この本で語られたことは、自民党や政界だけの話ではなく、企業、そして日本社会全体に対して言えることだと思いました。 無駄を省いて悪いところは変えていくこと。一見簡単なようで古い体質の中では難しいこと。これを打破できる政治家こそが今の私たちには必要です。