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創作時の私的イメージ
小説を書いているとき、頭のなかで起きていること。
その視覚的イメージ。
頭のなかに部屋がある。
便宜上「楽屋」と呼んでいる大部屋だ。真ん中に机があって、私はそこに座っている。座って脚本を書いている。
大抵、必死で書いている。うまく言葉が出てこなくて、逆に言葉が溢れ過ぎて、とにかく焦りながら書いている。書いては消し、消しては書く。
周囲には登場人物たちがいる。楽屋だから当然だ。彼らは出番を待ちながら、入れ代わり立ち代わり書いているところを覗き込んでくる。そして、脚本の内容についてまったく躊躇いなしに口出しをしてくる。
私は彼らの意見(と称する無責任な発言)を取り入れたり、無視したり、問い返したり、書く手を止めて反論したり、様々反応をしながら書き進める。
毎度毎度、なし崩し的に登場人物たちとの共同作業となりながら脚本はできあがっていく。
脚本の執筆と同時進行で「上演」もしくは「撮影」が行われる。イメージの世界の話なので、そういうむちゃくちゃなこともできる。私は脚本を書きつつ、登場人物たちの様子を眺めている。
登場人物たちが脚本の通りに演じ切ることはまずない。今回はおとなしいなと思ったら前触れなくアドリブを入れる。ひどいときは、まだ脚本のできていないシーンを急に始めたりもする。しかもかなりの確率で、その即興がとても良い。
私は歯噛みしつつ、その場で脚本を書き換える。そんなことがしょっちゅう起きる。
そうしてできあがるのが私の小説だ。
書き終わると、登場人物たちは楽屋を出ていく。おつかれさまと彼らは手を振る
彼らが出ていく前に、私は尋ねる。
きみたちは、本当に作中の人物なのか。それとも、あくまで演じていただけで、他の誰かなのか。
彼らは応えない。
笑って、また会おうね、とだけ言い残して、楽屋を出ていく。
引き留めたりはしない。
それよりも早く、ノートの新しいページが開き、次の「役者」が楽屋に押し寄せる。
また騒がしい日々が始まる。