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だから私には4キロ弱の湯たんぽが必要/猫たゃんのこと
うちには猫たゃんがいます。
オスの雑種で白い毛並みに青い目をしていて、甘えんぼで人間が大好きです。
これを書いている今も私の膝に乗っています。
うちの猫たゃんは「愛され猫」で、私はよく彼に全ての人間に愛されているよと声をかけます。
なぜなら彼は幼い頃交通事故にあって、外が怖いんです。
彼の世界はうちの中だけ。
だから彼は彼の世界にいる全ての人間に愛されている。真実なんです。
猫たゃんは推定7歳(なにしろ拾われ猫なので正確な歳がわかりません)で、猫の寿命で見るとまだ若いです。
でも猫たゃんには病気もあって、私は彼が死んじゃうんじゃないかとしょっちゅう心配しています。
こんなにあったくてやわらかくてふわふわの彼が?
私の膝で今も幸せな寝息をたてている彼が?
私は猫たゃんを飼うまで、猫がこんなに人間の気持ちをわかる生き物だとは思っていませんでした。
だって猫と人間は違う生き物だから、人間の表情の意味するところがわかるわけないと思っていたんです。
でも膝の上の猫たゃんは、目が合ったときに私がニコッとするとゴロゴロいいはじめるし、私が怒った声を出すと悪戯をやめるんです。
そして私が間違えて何か物を蹴ってしまったりすると、ビクッとして顔色をうかがうように見てきます(前の飼い主さんにいじめられていたのかもしれません。彼は貰われ猫でもあるんです)。
猫たゃんは日本語はわからないけれど、人間の発する他の言語(ボディランゲージや声色や表情など、コミュニケーションをとるときに用いるさまざまな情報伝達手段を含む広義の“言語“)はわかるんだと思います。
けれどもそうかと思えば、具合が悪くて寝ているときに「遊べよ」とじゃれてきたり、泣いているときに「その音をやめろ」とかじってきたり(私がヒッとしゃくりあげると驚いたような表情をして慌てて私の顔をかじりに来ます。あの音が嫌いなのかもしれません)。
彼なりの励まし方なのかもしれませんが、ワイルドすぎて笑っちゃいます。
ねこじゃらしの好きな猫たゃん。
かつおぶしの好きな猫たゃん。
お好み焼きの粉の匂いに惹かれて、棚に潜り込んで粉をぶちまけた猫たゃん。
人間の膝が好きな猫たゃん。
冬は私の布団に潜り込み、お腹のあたりで眠る猫たゃん。
カラスの声がするとビクッとして空を探す猫たゃん。
またたびに興奮しておもちゃをバラバラにした猫たゃん。
一緒に行こう! と誘うと素直にトイレまでついてくる猫たゃん。
人間の服で爪とぎをするのが好きで、私の部屋着をぼろぼろにしてくれる。
彼はたくさんたくさん私に大切な思い出をくれました。
だから私は彼を失うのがこわくて、今のうちから心配ばかりしています。
いつか絶対にお別れは来るから、それが来ても後悔しないように、彼のことはいっぱい撫でていっぱい遊んでいっぱい美味しいものを食べてほしいと思っています。
そして彼を失った傷を癒せるように、その時の私には4キロ弱の湯たんぽがどうしても必要なんです。
(そういう性分なんです。こわいことが起こったときのために準備しておきたい)
あったくてやわらかくてふわふわの湯たんぽ。
かたちは楕円がいい。丸まった猫たゃんと同じくらいの大きさで。
うちの猫たゃんは今3.8キロくらいです。だからそれくらいの重さがないとダメなんです。
寂しくなったらそれを膝やお腹の上に乗せます。
できれば色は白。黒いしっぽがあるとなおよし。
人間が先に死ぬこともあるかもしれないので猫たゃんにも何かを残してあげたいんですけれど、さすがに170センチの人形を用意するのは無理なので猫たゃんより先には絶対死なん、と決めています。
眠いときの猫たゃんの鋭い目つきが好き。
あくびをするときの妖怪みたいな顔が好き。
細長いものを差し出すと寄り目になってにおいを確かめるのが好き。
伸びをすると長くなるのが好き。
猫たゃんは私の大切な大切なおともだちです。