今まででいちばんおいしかったもの
あんずジャムがたっぷりのった、焼いてないふわふわの食パン。
2007年の秋、夜0:00頃に食べた。
初めて好きな人の家に泊まった日だった。携帯の電源を切って、部屋の扉を閉めて、世界がここだけで完結していればいいなと思っていた。逃げ切れたらいいなと。
悪いことをしていると知りながら、これ以上ないくらいわくわくそわそわしていた。修学旅行の夜みたいな感じ。
台所からパンとあんずジャムを部屋に持って来て、ベッドに座って食べた。唇と同じくらいふわふわのパン(この表現は変だと思うけど、同じくらい柔らかかったと思うの)。初めて食べるあんずジャム。普段は絶対にない、0時に摂る食事。
これから朝まで一緒にいられるかと思うとうれしくって仕方なかった。ベッドに並んで横になって、いろんな話をした。小さい頃の話とか、今まで知らなかったことを眠たくなるまでいっぱい話した。
その日は溶けるように眠った。溶けるようにっていうのは、眠気の塊(時に頭痛を伴う)が柔らかいものに包まれて溶かされていく感覚なんだけど、通じるかな。どうだろう。
その頃うまく眠れなかった私にとって、朝までぐっすり眠れることは幸せなことだった。本当にあったかかった。心身共にボロボロな時だったから、尚更染みた。
男の人が苦手だったことを話していたので、一緒に寝ると言っても手をつないだり抱きしめたりする程度で、それも本当にあったかかった。
おいしかったもの、他にもいっぱいあるけれど、思い出の強さゆえ、これには敵わないのです。
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