夜更けのキッチン
「ナイフで剥くと大変じゃない? ピーラーあるよ」
「僕それ嫌い」
「果物の皮をナイフで剥く所作に生活の趣を感じるの?」
「そう。コーヒー豆を挽くのとか」
「コーヒー豆を挽くのは日常?」
「うん、でもコーヒー豆っていうのは、何より焙煎したてなのが重要なんだよ。君が貸してくれた小説にもあった通り」
「そうね」
私は君に小説を貸す、君は果物の皮を剥いて私に食べさせる、そうして作られたふたつの身体がいつかコーヒー豆を挽く朝に着くことを、今はまだ、夜更のキッチン。
急に雨が降ってきた時の、傘を買うお金にします。 もうちょっとがんばらなきゃいけない日の、ココア代にします。