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お台場の思い出

2017年5月。お手洗いの鏡にうつる姿を見て、自分がただ一度のとびきりの幸福のなかにいるのを思い知った。外に出れば彼が待っているのだ、私のことを。

さっきまで、海が見えるカフェで食事をしていた。もう22時くらいだから、遅かれ早かれ帰路につくだろう。

食事は、全然喉を通らなかった。

「あなたが好きなのはオムライスとカルボナーラでしょ。それにピーチティ」

「どうしてわかるの?」

「むかし一生懸命傍にいたんだから、わかるよ」

運ばれてきた料理は、本当にどれも好きな料理だった。でも、苦しかった。

「胸がいっぱいで食べられないよ」と笑うと「何言ってるの、食べなさい」と言われた。冗談だと思われているようだった。

本当の本当なのに。彼といたら、いつも食事なんていらなかった。好きで好きで、それだけでいっぱいで、食べものなんて入らなかった。


デッキを並んで歩いた。夜風に吹かれながら、この夜をできる限り記憶して、ずっと繰り返し再生して生きていこうと思った。

寂しくない、寂しくないと言い聞かせながら、一歩あるくたびに寂しいがこぼれそうになるのを堪えて、前を向いて瞳に風を受けた。それしかできなかった。

ーーー
思えばこの夜も、わたしたち以外ほとんど誰もいなかった。2022年、VenusFortもパレットタウンの観覧車も閉鎖される。中学生の頃、ここはとても賑やかで、そんなふうになくなっていくなんて考えもしなかった。わたしはあっけなく、この夜を再生するのをやめ、いまは全然違う場所にいる。

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このみ
急に雨が降ってきた時の、傘を買うお金にします。 もうちょっとがんばらなきゃいけない日の、ココア代にします。