精神科医が読むルックバック
このマンガがすごい!の1位に選ばれた『ルックバック』
1巻読みきりで、チェンソーマンを書かれている藤本タツキ先生の作品です。
2人の女の子が漫画家になっていく話で、伏線がとにかくすごい。内容も一度で何を語りたいのか理解するのが難しく、いろんな人が解説しています。京アニの事件が込まれていること、そしてEnglandの有名な歌手、OasisのDon't Look Back In Angerも反映されていると言われています。この歌も、2017年アリアナグランデのコンサートのラストソングの後に実際にあったテロへの追悼の曲です。なので、こういった殺人への追悼の意が込められているかと。この漫画の中では、少し自信をなくしていた女の子に一緒にマンガを描く勇気をくれたその2人が、マンガ家としてうまくいって楽しい時間を過ごす。マンガをもっとうまくなるために、一人は美大に、一人は漫画家を続けていく。そして、ある日、事件が起きて、一人の女の子が死んでしまう。もう一人の子は描く気をなくしてしまって物思いに耽る。あの時こうしなければ、ああしなければ…。
そして、その”もし、あの時こうしていたら”の世界を描いていく。その中には、2人が助かった未来、そもそも交わらなかった世界、いろんな世界がある。まさしく題名の”振り返る”をする。
ルックバックには、振り返る、と背中を見る、2つの意味があって、作品中もどっちの要素も見て取れる。
先ほど、Oasisの曲と繋げたのは、“Don’t”の文字や、最後のページにIn Angerと書かれているところの伏線なので、おそらく間違い無いのだけれど、せっかくなのでこの歌詞とリンクしながら見ていこうと思う。
A better place to play
もっといい遊び場が
You said that you'd once never been
一度だってないとお前は言ってた
But all the things that you've seen
でも見てきたものはすべて
Will slowly fade away
ゆっくりと消えてくだろう
マン以外の遊び場はなくて、特に一緒に書いていたそのマンガが2人の全てだった。でも、死んでしまって時間とともにその思い出はゆっくり消えていく
So Sally can wait, she knows its too late as we're walking on by
サリーは待ってくれる、並んで歩くには遅すぎるのを知ってるから
Her soul slides away, but don't look back in anger I heard you say
彼女の心は離れてく、でも怒りに変えちゃいけないって聞いたんだ
生きている時も、彼女は絵を描くのが遅かった。でも、そんな君を待っていたんだ。だけど、彼女は途中からは美大に行って、離れて行った。それでも怒ってはいけない。だって、その目的は、もっとマンガをうまくなりたいというマンガ、そして二人の未来を軸にした自分の人生。決してこの子は自分が弱い子ではなく、むしろ真っ直ぐな線を持っている。しっかり自分の人生を自分で決められる子。
Take me to the place where you go
どこへだって連れて行ってくれ
Where nobody knows if it's night or day
たとえ昼だろうが夜だろうが誰も知らなくても
Please don't put your life in the hands
ただお前の人生は任せちゃいけない
死んでから想像したいろんな”もしも”。でも、この現実は、決して彼女のせいではないし、その子自身の選択で成り立っている。そして、これからの人生、マンガを通してその子を何処へだって連れて行けるのは彼女のマンガだけ。だからこそ、ペンネームはずっと一緒。二人の名前を混ぜている。
Don't look back in anger
振り返った時の感情は怒りじゃ無い。過去は変えられないし、どんな結末が起きていても、それまでの二人の時間全てを憎む必要はどこにも無い。あの時出会わなかったら?一緒にマンガを書いていなかったら?こんな楽しい人生はなかったはずだ。
それも全て、それぞれが自分で決めた上に成り立つもの。
そして、この子が生きてきた人生を伝えて行けるのは自分だけ。だから立つんだ。この振り返りは未来への道の一つで今も通過点。そして、いつまでもその子の背中を見ながら、彼女は進んでいく。
そんな感じに捉えました。
短いのに素敵な物語。