「誰に、なにを届けたいの?」私たちの歩みと葛藤
大切な誰かに“インタビュー”を贈り、本にする『このひより』を開発中の私たち。前回は今考えているサービスについて、メンバーの佐々木が記事を書いてくれました。
「インタビューしたものが、本になる」
それだけを聞けば、なんだかずいぶん簡単なもののようで。私たちもプロとして取材や執筆をしてきた身なので、なんとなく、完成までの道筋は見えている気がしていました。
ところがリリースが近づくほどに、その道のりの長さが見えてきます。
ウェブサイトは?注文の受付と対応は?スムーズに取材できる?どんな本にする?梱包は?発送方法は?……そして、「価格」は?
考えること、決めなければいけないことが、出てくる出てくる!「サービス」を作り出すって、こんなに大変なんだ……と、この世のすべての開発者をリスペクトする日々でした。
今回は、『このひより』開発の歩みのなかでぶつかった葛藤や悩み、その先にようやく見えてきたことを書いていきます。
(執筆/ウィルソン麻菜)
『このひより』で、誰に何を届けたいのか
昨年の夏に構想がはじまった『このひより』。
「“インタビュー”を贈り、本にする」というコンセプトは当初からあったものの、どうすればそれが「サービス」として形になるのか、具体的に固めていくのには、本当に時間がかかりました。(名前を決めるのだけで、半年くらいかかった……)
というのも、私たちがやりたいサービスには、「インタビューを贈る人(『贈り手』と呼んでいます)」と「受け取ってインタビューされる人(『語り手』と呼んでいます)」が存在します。
両者にとって特別な体験を届けることで、生まれる価値が必ずある。そう思う一方で、2方面にサービスを提供する相手がいることで、私たちが「誰に何を届けたいのか」を見失いそうになることも多々ありました。
例えば、「インタビューという場をどう設計すべきか」と話したときは、
「贈り手がインタビューに同席することで、話せない内容が出てこないかな……」
「じゃあ語り手に、同席OKか決めてもらう?」
「うーん、語り手の判断の負荷は小さい方がいい気がするなあ」
「そもそも、“同席したら話せないこと”より、“同席するからこそ話せること”に価値があるよねって話じゃなかったっけ……?」
という感じ(この議論ひとつに数週間を要してしまった……)。
本が完成してからの流れも、
「贈り手も、完成した本は読みたいよね」
「でも、本を持っていたいとまで思うかな?」
「じゃあ、電子書籍で読めるようにするとか?」
「閲覧権限は?語り手に承認してもらう?」
「待って待って。完成した本って、贈り手から手渡しするようなものじゃないの?」
といった感じで、気づけばミーティングは毎回、数時間に及んでいました。
サービスを選ぶ『贈り手』にとって満足度の高いサービスにするべき。でも、実際に使う(インタビューされる)のは『語り手』なわけで……。私たちのなかで何度も、ブレては戻り、ズレては戻り。まさに「ああでもないこうでもない」と議論を重ねてきました。
「サービスづくりってこんなにも難しいのか~!」と目が回る。“本そのもの”を作り始める前の段階で、考えることだらけ。
本当にサービスとして提供できるのか?という焦りと同時に、話し合いを重ねるほどに「少しずつ前進してる!きっとできる!」と全身の血がわっと沸き立つのを感じながら、ひとつずつ課題に向き合ってきた時間でした。
そうして、まだ完全にではありませんが少しずつ固まってきた結果が、前回書いた「一緒につくる、インタビューギフト。」だったのです。
『贈り手』と『語り手』、両者にとって特別な体験を届けること。最終的にはぐるりと回って、最初にみんなが考えていたことに戻ってきて、腹落ちした感覚がありました。
はじめての“本づくり
サービス内容を練るのと同時並行で、『このひより』に欠かせない“本”のサンプルづくりも始めていました。
まずは、中身!ここは、ライターや編集者としての経験を活かせる部分です。私たち自身が『このひより』で本を贈るなら……と考えた身近な人たちに協力してもらい、インタビューをしました。
私は、父の還暦のお祝いに、彼の山あり谷ありの人生を1冊の本に。そこで驚いたのは、「人の人生を残す」のにここまで時間と精神力を使うのか、ということ。
同時に、自分が実際の『贈り手』になってみることで、「これは、多くの人に体験してもらいたい!!」と改めて『このひより』の価値を確信しました。
(それぞれのサンプルを作ってみたときのことは、また別の機会に記事にしたいと思います。インタビューで感じたことや父の嬉しそうな様子、文章になったときの反応など、私自身が覚えておきたいことばかり!)
原稿が完成したら、いよいよ印刷、そして製本へ。ここでもまた、「ああでもないこうでもない」と言いながら、体裁を決め、フォントを決め、写真の入れ方を決め……。ようやくデータができたと思ったら、どこで印刷するか、表紙はどうするか、中の紙質は、帯やカバーは必要か、など考えることだらけ。
今までの人生で、当たり前のように手にとっていた“本”が、こんなにもたくさんの工程を経て、いろいろな想いが詰め込まれて出来上がったものだったとは。そう実感してばかりの、試行錯誤の時間でした。
結局、サンプルだけで8種類以上の組み合わせを製本テスト。ライターであるにもかかわらず、完成したときの感動は言葉にできないものがありました。
胸を張ってお渡しできる本ができたので、多くの人に手にとってもらいたいな、と思います。
最大の課題「価格」
現在、私たちはβ版リリースに向けて準備の大詰め段階。サービスフローを整えたり、梱包材を決めたり、ウェブサイトをつくったり。それぞれ他の仕事や家庭と両立しながら、進めています。
やっとみなさんに『このひより』をお届けできる!とわくわくする一方で、実は、一番決めなければいけないところが決まってません。
今抱える最大の悩み、「価格設定」。
1冊の本を作るのにかかる時間や労力を目の当たりにし、「あまりに低価格で提供することは持続可能ではない」と感じました。これは、しっかりとサービスに向き合うためにも、ある程度高額にせざるを得ないのでは、と。
ただ、じゃあ値段を上げればいいかというと、そこにも葛藤があります。
もともと、私たちが一番『このひより』を届けたいと思っていたのは、自分たちと同世代の人たち。つまり、仕事が変わったり、結婚したり、子どもが生まれたりして、人生が大きく変動している人たちです。彼らに「こぼれ落ちてしまう記憶を言葉で残す」価値を知ってほしいし、身近に思ってほしい。
そして、仕事が変わったり、子どもが生まれたりするということは、「他にお金をかけないといけないものも、たくさんある」世代です。そんな人たちに、心から勧められるのは、一体いくらなのか……。
答えは、まだ出ていません。
でも、まずやってみなきゃいけないのは「価値をきちんと伝えていく」ことなんだろう、とみんなで決めました。私たち自身、普段から魅力を感じるサービスや商品には、「高いけど、それだけの価値がある」と納得できるものがたくさんあるから。
以前の記事でも書いたことですが、「文章を書く」って本当は誰もができることです。目に見えない価値だからこそ、私たちが全身全霊でその1冊を作り上げていることを伝えていく必要があると感じています。それこそ、私たちの“言葉”を使って。
β版『このひより』リリースに向けて
そんな状態ですが、来月の頭にはβ版『このひより』をリリースするつもりで進んでいます。
β版では、サービスを低価格で体験し、改善のためのフィードバックをしてくださる方を募る予定。つまり、『このひより』を使ってみて、私たちの相談に乗ってくれませんか…?ということなのです。詳細は、リリース時にお伝えできればと思います。
作る側の私たちでは気が付かないような落とし穴や、『このひより』をもっと良くしていくためのアドバイス、そして何より、価値を知った上で「贈ってみたい」と思える価格について。みなさんに相談しながら、『このひより』を完成させたいと思っています。
まだ先だと思っていたβ版リリースの予定日も、気が付けばすぐそこ。またお知らせするので、待っていてくださいね!
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