この時代になぜ「閉じたストーリー」を残すのか #このひだより
このひよりのサービスについて、メンバーが語る『#このひだより』。ちょっと久しぶりの更新になってしまいました。
β版をリリースして以降、いくつかのご依頼をいただき、長引くコロナ禍の影響を受けながらも少しずつインタビューや原稿づくりを進めています。
先日は事前サンプル以来の、初めての「本」をひとつ完成させ、無事に依頼者の方にお届けできました。その後、このひよりを利用してみての感想を、受け取ったときの感情とあわせて丁寧に(本当に丁寧に…!)フィードバックいただき、メンバー3人で改めてその内容をじっくりと噛み締めています。
今の課題がなにか、具体的にどう改善していくかは、もう少しβ版の実績を重ねてからご報告するとして。今日はこの半年間の間で実際に依頼を受けたり、発信をしたりしてきて改めて気づいてきたことをちょっとお話しできればと思います。
(執筆/佐々木将史)
このひよりの“コア”の価値2つ
このひよりのタグラインは、『一緒につくる、インタビューギフト。』です。ここからわかるように、僕たちのサービスには大きく2つの特徴があります。
①「インタビュー」というちょっと特別な体験を、誰かにプレゼントできる
② 贈り手さん、語り手さんと「一緒に」物語をつくっていく
①は、このサービスのメインの価値です。大切な人がふと語る「あのエピソード」を、あえて“言葉”として残して残す。僕や他のメンバーが過去いろんな人にインタビューを重ねるなかで、取材相手や関係者の反応などから、「喜んでもらえる可能性がある」と一定の確信を持っていた部分でした。
普段インタビューされることがない人も、自分の人生を語る機会を持つこと自体はかけがえのない体験になる。それを、"ギフト”という手段で手にしてもらいやすくできないかと考えています。
②は、第三者(書き手である僕たち)が語ってもらったことをただ文章にまとめるのではなく、贈り手さんも一緒にインタビューを企画・同席し、語り手さんと場を共有しながら、ひとつの物語を一緒に編んでいくことです。
贈り手さんの同席は、実は最後まで悩んだ部分。ただ、人生を語ってくださる多くの方が「インタビュー未経験」となるだろうこのサービスを成立させるために、やはり重要な要素ではないかとこのひよりでは考えました。
実際、β版でいくつかのインタビューをさせてもらって、この2つの価値についてはより確かな手応えを感じてきています。
「本」という閉じた空間だから、できること
そんなコアの価値だと考えていた2つとあわせて、実は今、もう1つ大きな価値として感じていることがあります。それが「本」で届けることの意義です。
このひよりでは、藤原印刷さんに協力してもらい、およそ12000字〜15000字にまとめた文章を手製本のハードカバーでお届けしています。
追加注文を含めたとしても、お送りする本は1つのご依頼につき数冊程度です。そこに綴られた言葉を目にするのは、仕上がった1冊を「手にとった人だけ」。
この限定性が、個人の物語を残すときには、やっぱりすごく重要じゃないかと思うんです。
あらゆるもの(写真、言葉、動画……)がデータとして共有される今。思い出や言葉はデータで残されることが増え、撮った写真や動画の共有にもSNSなどが多くのシーンで利用されるようになりました。
そんな時代に、外に広がっていかない「閉じたストーリー」を「きちんと」残していくことって、実は意識しないとできない体験になってきています。
もちろん、共有され共感され、広く情報が広がっていくのは今だからこそできる楽しみ方・残し方です。一方で、それを多くの人に見せようとすると、別の意識が入り込んでしまう場合もあるかもしれません。きれいに整えたり少し背伸びをしたり、表現や個人情報に配慮が必要なこともあるでしょう。
多くの人の目に触れるとわかった上で話す、パートナーとの馴れ初めや子どもに出会えたかけがえのない出産の話は、大切な誰かに伝えたいものと本当に同じなのか。おじいちゃん、おばあちゃんに聞いてみたかったあの思い出話のなかには、大切な人だけが分かればいいものもあるんじゃないか。
今僕たちは、「閉じたストーリー」という前提だからこそ語れる話があり、リアルな心情を残してもいいと思ってもらえる機会がつくれると考えています。実際にβ版を通じて世界でたった1冊の本をつくり、そこに途方も無いほどのプライベートな想いを綴らせてもらって、改めてその価値を感じます。
誰かの物語に魅せられるなかで
オープンなインタビュー記事には、オープンなインタビュー記事としての価値がもちろんあります。
僕たちもこのひよりの価値の一部を感じてもらうために、『#大切な日が言葉になったなら』というマガジンで、誰か1人の、ある大事な1日の記憶を記事にさせてもらい、noteで公開しています。これもすごく喜んでもらえますし、開かれているからこそ多くの人に届けることもできる。
ただ、オープンである以上、やっぱり書けない裏話はあり、構成にも実はかなり工夫が要ります。どちらが良い悪いではなく、読ませたい相手とその範囲によって、残すエピソードや物語のつくり自体が実は大きく違う。
そのことを、僕たちは本とマガジンの両方をやっていくなかで感じてきました。
人の物語に、人は魅せられます。もし大切な人の話を形に残したいとして、それはみんなにおすそ分けしたい話なのか、誰かとそっと分かち合いたいストーリーなのか。読み返したいシーンは、どんなものなのか。
それらが見えてくると、「思い出を残す」選択肢の1つに、本として形にすることに価値を見出してくれる人が、自然に増えてくるはず。まだ歩み始めたサービスですが、そんなことを今僕たちは思っています。
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