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「札幌、早朝、そして古びた橋」

先日、札幌で早朝の散歩をした。ホテルを出て、ひんやりした空気の中、小さな川の上にかかる古びた橋を渡った。そこには何の変哲もない風景が広がっていたが、その瞬間、まるで底の浅い引き出しの奥からふと見つかった写真のように、25年以上前の記憶が不意に甦った。それは僕にとって、とても大切な思い出だった。

記憶はときどき、なんの前触れもなく襲ってくる。そしてそれは決まって、僕がそれを一番必要としていないときにやってくるのだ。その頃の僕は、今とはずいぶん違う未来を夢見ていた。自分がこんな人生を歩むなんて、微塵も想像していなかった。

けれど、そうやって立ち止まって思い返してみると、思い出というものは案外しっかりと形を保っていて、そしてそこにはいつも、不思議な静けさがある。何がどう違うのか、どこからずれてしまったのか、そんなことをいくら考えてみても答えは見つからない。ただ、ひたひたと流れる川の音が聞こえてくるばかりだった。

そして僕は橋の真ん中で立ち止まり、その記憶をもう一度胸の奥にしまい込むことにした。ゆっくりと、そっと、引き出しの奥に戻すように。それが一番自然なことのように思えたからだ。






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