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熊本地震震災ミュージアム「KIOKU」のA面とB面
2023年7月にオープンした南阿蘇村にある熊本地震震災ミュージアム「KIOKU」に行ってきました。建築が素晴らしいとの評判を聞いたのと、来月の東北旅行で震災ミュージアムに行こうと思っているため、まず地元のミュージアムを見ようと思ったからです。
ちなみにこちらの建築は、ネットマガジン「BUNGA NET」で企画された、建築界の本屋大賞のような一般参加型建築大賞「みんなの建築大賞」にもノミネートされました。
実際に行ってみるととても良かった部分とかなり残念だった部分がありましたので、A面(良いところ)B面(残念なところ)に分けて紹介します。
熊本地震震災ミュージアムKIOKUとは
2016年4月、「大きな地震は起こらない」と長年言われていた熊本で震度7の地震が発生しました。後から「前震」と呼ばれた最初の震度7の地震のおよそ28時間後、「本震」と呼ばれる2度目の震度7の揺れに襲われました。
私は熊本市内で震度6強を経験しました。幸い人的にも建物も被害はありませんでしたが、1週間程度水道は使えませんでした。
震源地の西原村や益城町と近い南阿蘇村でも、阿蘇大橋をはじめとする交通インフラや水・電気などのライフラインの寸断といった、甚大な被害がありました。
熊本地震震災ミュージアム「KIOKU」は熊本県内の震災遺構などを活用したフィールドミュージアム「熊本地震記憶の廻廊」の中核拠点として、南阿蘇村の旧東海大学阿蘇キャンパス内につくられました。設計はくまもとアートポリスのコンペで選ばれた大西麻貴+百田有希/o+hです。
A面
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熊本市内から車で新阿蘇大橋を渡ってすぐの坂道を北に進むと、ひらけた敷地にミュージアムがありました。
特徴的な流れるようなオレンジの屋根は、野焼きの灰や阿蘇黄土を釉薬に使用したオリジナルのタイルだそうです。
壁は山鹿産の骨材を埋め込んだコンクリートの洗い出し、柱には熊本県産の杉やヒノキを多用、展示室はガラス張りになっています。
風通しが良くて、阿蘇の素晴らしい風景にも馴染む、圧迫感のない建築物です。
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受付で観覧料500円を支払い、展示室1と2を見学し、震災遺構・東海大学南阿蘇キャンパス1号館に向かいました。阿蘇の景色を見ながらゆるく昇っていける動線になっています。
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漫画「ワンピース」のロビン像がある側の広場に地表地震断層が保存公開されていました。
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細い通路から建物の反対側に渡るとそこが大学のエントランスです。
構造が剥き出しになった校舎、散らかったままの屋内、ヒビ割れた地表がそのまま残されており、地震の凄まじさを肌で感じました。
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こちらの震災遺構は初めて見たのですが、保存のための費用がかかるとはいえぜひ残してほしいと思いました。
映像だけでは伝えきれない本物の迫力がありました。
B面
続いて残念だった点を挙げていきます。
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ゾーン分け
KIOKUは大人500円の観覧料のかかる有料ゾーンと無料ゾーンに分かれています。
では有料ゾーンになにがあったかというと、映像シアターとぐしゃぐしゃに壊れた車や交通標識、避難所で使用された段ボールのメッセージ、防災対策のグッズ紹介でした。
ガイドの方とお話したのですが、観覧料を支払うのは来館者の半数以下どころか3割程度だそうです。
先ほどA面で紹介した「良いところ」は全て無料ゾーンでした。私の感想としては、有料ゾーンは支払うのがもったいなく、無料ゾーンは無料で見るにはもったいないと思いました。
そして、ゾーン分けすることで動線が悪いと感じました。ラウンジがあるのですが、それは有料ゾーンです。だからと言って、建物内では飲食禁止となっており、誰でも入れる芝生広場では飲食可能になっていました。
ゾーンで分けないで最初から全部を有料にすればいいのに。
それはちゃんとこの施設を維持するために。
サスティナブルかどうか
建物のデザインは素晴らしいのですが、ガラス張りで熱がこもり、展示室はかなり暑くなるそうです。上部に開口がないためエアコンで温度調整しているというのもサスティナブルじゃないなぁと思いました。
また、薄く特徴的な屋根はデザイン性を考慮して雨樋がついておらず、雨だれが同じ場所に落ちます。その部分の床のコンクリートにはすでにヒビが入っていました。
地震のことで建てられたのですが、阿蘇は大雨による水害が多い地域です。傾斜地にあるため雨が降ると上から雨水が展示室や受付に向かって流れ、建物内に水が入り込むのも大変だと言われていました。
社会派ブロガーちきりんさんが、地域再生のプロ木下斉さんと対談した内容をまとめた「震災復興についての議論まとめ」のエントリーから、まさにこのことだなと思ったので一部抜粋します。
・復興時は国から多額の資金が提供されるため、地域ニーズに合わない巨大な建造物が造られる。
・しかし建物は造って終わりではなく、毎年維持費がかかり、10年に一度は修繕が、20年に一度は大規模修繕が必要で、そのコストは国ではなく自治体の負担となる。
観覧料が充分とれないのに、照明やエアコンなど電気代がかかる、さらに建物の修繕費がかかるのなら、それは税金で賄うしかないですよね。
せっかく旧東海大学阿蘇キャンパスという震災遺構とアートポリスで建てられた建築があるのだから、税金に頼らず維持できる仕組みにできればよかったのにと思いました。
まとめ
残念に感じたのは、車でしか行けないアクセスの悪さのわりに滞在時間が短かったということもあります。全部ゆっくり見ても1時間かかりませんでした。
見どころが少ないだけでなく、ゆっくりできる場所がないこと=飲食できない、ということもあると思います。
なぜカフェスペースやミュージアムショップを作らなかったんだろう?
来館者には普通の観光客だけでなく、いかにも建築関係の方も見かけました。(都会的でおしゃれな黒い服を着た男性が数人で歩いているので、建築関係者だろうなぁと)
せっかく人を呼べる建築物を作ったのだから、木下さんが言うところの「ゴースト施設」になってしまわないことを願っています。