しんどかった時、助けてくれたのは
入院していた間、母の要求には随分悩まされた。「あれがいる」「これがいる」というリクエストが多かった。買って渡しても大方は気に入ってもらえなかった。娘は母に従って当たり前、思う通りにならない不満はすべて娘に……。母の医療費と諸経費の支払いを月々滞りなく回していかねばならなかった上、折角買って持参したものに横を向かれるとどうしようもなく腹が立った。それまでの長いいきさつもあり、苦痛が嵩じて、とうとう母からの電話を取れなくなってしまった。
そこでわたしを助けてくれたのは夫だった。母から自宅の固定電話にかかってくる電話は放置することにし、本当に必要なものがあれば病院から夫の携帯電話に連絡してもらうことにした。週に一、二度、夫と二人で行っていた面会は、夫がひとりで行ってくれた。どれくらいの期間だったのか記憶もあいまいだが、おそらく数年はその状態が続いていたと思う。なので病院の看護師さんやスタッフは、夫のことを母の実の息子だと思い込んでいた。足繁く面会に来てくれるやさしい息子さん。そして実の娘のわたしは、折り合いが悪いからたまにしか来ない嫁というふうに見えていたわけだった。
振り返れば、母との関係が一番しんどかった時期をそうしてやり過ごすことができたのは、本当にありがたいことだった。
夫のすごいところは、それを義務としてやったのではなく、ごく自然に、たんたんと続けてくれたことだった。母のことを、家族として大切にしてくれた。そしてあんなに人の好悪が激しかった母も、夫のことが大好きだった。