与勇輝さんの人形

随分前のこと、「徹子の部屋」のゲストに人形作家の与勇輝さんが招かれたことがあった。与さんは自作の人形を持参していた。彼が人形をテーブルの上に、とん、と軽く立てると、人形が二本の足ですっと立った。それを見て、本当に驚いた。生卵を立てるようにそろりそろりと重心を探って立たせたのではなく、本当に無造作に、とんと立てて、手を離したら立ったのだ。何の支えもなく、立たせるための特別な骨組みもないのに――。
何て健やかで、力強い人形なんだろうと思った。造形芸術の奥深さを目の当たりにした気がした。

短歌を書く上でずっと、〈一首で自立する〉ということを考えている。たとえ連作に仕立てて発表するにしても、一首一首は自立していてほしい。
十首十五首と数が決まっている場合、全体の流れを作らなければと、状況や事情を説明するだけの歌を書いてしまうことがある。あるいはうっかり、前後の歌の意味によりかからないと立てないひ弱な歌を書いてしまうこともある。でも、それでは「お話」になってしまって、だめだ。物語か日記が書きたいのなら短歌にする必要はない。
短歌は詩だ。散文ではない。
ひとつひとつ強烈な個性がありながら、力むことなくしなやかに立っていた、与さんの人形のことを思う。

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