さん付けで呼ぶ

自分の身体の中、横隔膜のあたりに、小さい子がいると仮想している。過去の自分によく似た、三歳から五歳くらいのこどもだ。自分の過去の姿に似てはいるが、わたしとは分離した、あくまでも別の人格だ。彼女のことをインナーチャイルドと呼んでもいいし、わたしのウニヒピリがそういう姿をとっていると仮定してもいいかもしれない。とにかく、いるのだ。
これまでずっと一緒に過ごしてきた筈だが、意識するようになったのは最近のことだ。
彼女の名前はわたしと同じ*子だ。何故かはわからないがわたしはそれを知っていた。それについては彼女も異議なしのようだ。
わたしは彼女を「*子さん」と「さん付け」で呼ぶ。
いつだったか、彼女の気配がした時、鳩尾に手を当てて、(あなたに話しかけるのに、様づけがいい?さんづけがいい?それとも*子ちゃんがいい?)と訊いてみたことがある。彼女は直接ことばを返してはくれないが、さん付けで呼んだ時、てのひらで触っているお腹あたりの緊張がやわらぐのがわかった。かすかな反応だったが、コミュニケーションができてわたしはほっとした。
そういえば自分もこどもの頃、周囲の大人に話しかけられる時、変に甘い声で「*子ちゃん」と呼ばれるより、大人同様「*子さん」と呼ばれる方が、一人前の人間扱いされているようでうれしかったことを思い出した。生意気といえば生意気、でもこどもは小さくて弱くて傷つきやすいからこそ、誇りも強いのだと思う。

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