ヨシダジャック歌集『桃』を読む

みずみずしい黄桃の表紙。ちょうどいい軽さ、明るさの感じられる造り。白すぎず、ほんの少しざらついたページに触れるとき、ペーパーバックっていいなあと思う。この厚みと手触りはどこかなつかしい。そう、昔むかし読んだ、谷川俊太郎訳のスヌーピーの漫画本に似ている。

短歌一首、散文、挿画が見開き二頁にきれいに収まっている。個人的にいいな、好きだなと思った作品を、二首引用。

空を見れば大小の熊眠りおり ひかりはきっと答えではない

ヨシダジャック著 歌集『桃』Yoshida Marketing Office (2024年刊)38ページ「ひかり」より

星座のおおぐま座、こぐま座のことだろうか。下句の静けさが好きだ。星の光に何かを求めたり感じたりするというありがちな発想が、きれいに反転されているところが気持ちいい。

願掛けの天神、天満、難波橋、橋姫ひしめきあって笑う

同上 56ページ「橋姫」より

ひとつの橋に橋姫がひとりいるのだとしたら、大阪市内には何人の橋姫がいるのだろう。橋姫どうしで集まって遊びに行ったりするのだろうか。歌に触発されてそんなことを想像するのが楽しい。

ジャックさんの短歌は、きちんと勘所を押さえていながら軽やかで自由だ。『桃』を読んでいると、自分の短歌のとらえ方、表現の窮屈さ、重さが逆光を浴びたように浮かび上がってくる。


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