ここしか突破口はない

抱えるだけ抱えてどう整理したらいいかわからない気持ちがあった。書くことでそれを何とかほどいてみたかった。
偶然に偶然が重なり短歌に機縁を得て、三十代後半で歌を書き始めた時は、自分の鬱屈をストレートに歌にぶつけていた。ここしか突破口はないと思えた。文字通り必死だった。歌を書くことで何とか正気を保っていられた。
短歌はさぞ迷惑に思ったことだろう。短歌はゴミ箱でもサンドバッグでもない。それでも短歌は文句ひとつ言わず、わたしの粗野なふるまいを黙って受け容れてくれた。
結社に入って三年で一冊目の歌集*を上木した時は、畏れ多いことをしてしまったという気持ちもあった。それでもあのタイミングで一冊にしなかったら、その後短歌を続けていたかどうかわからないし、そもそも人間として生き続けられていたかどうか怪しい。わたしは短歌で命拾いをした。

*十谷あとり著 歌集『ありふれた空』 北冬舎 二〇〇三年刊

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