霧の中の思い出
入院中の娘に面会に行った
病院からの帰り道。
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【#娘6ヶ月の頃のある日の思い出】
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冬至のその日は珍しく深い霧で、
車を運転するのもこわいほどだった。
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一瞬先はわからない。
誰にもほんとうはわからない。
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前回の心臓の手術の合併症で
横隔膜の神経が麻痺して
動かなくなってしまった娘は、
まだカブトムシのような
人口呼吸機をつけて、
呼吸をアシストしてもらっていた。
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先生の説明では、
横隔膜は明日動くようになるかも
しれないし
一生動くようにならないかも
しれない、と。
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わたしはなんじゃそりゃ、と
思ったし冗談じゃないとも思った。
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帰り道、霧の中をノロノロと
運転しながら
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あらゆる可能性の地平が広がっている
実は、みんなそれぞれ
自分が思うよりもっと
どんなことでも起こりうる
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量子力学の世界では
人が見て認識した瞬間に
その物のかたちになる、と
いうじゃないか
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不安と一瞬先もわからない
気持ちの中で
必死でしがみつくように
娘が選ぶ未来に覚悟してついていく
気持ちと、それでもどうか
横隔膜が動くようになってほしい
という気持ちが入り乱れて
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人には、グレーやくすんだ色
入り雑じったなんともいえない色が
必要なときもある。
元気すぎる色に疲れる日だってある。
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