「意図」(『このあいだ』第3号 2020/12)
妻の言い間違いに慣れてもう長い。
彼女が言い間違えたことは、これまでに私が蚊に咬まれた回数ほどあれど、 そのしばらくの痒みのあとはほどなくひいていくので、ひとつひとつの言い間違いは面白いのに、残念ながら記憶に残っているものはわずかしかない。
一戸建てを借りて住んでいたとき、2階から 「階段をひろってきて」と言われた。 洗濯物の山から落ちた靴下かハンカチーフを拾って、「はーい」 と上にあがった。
あるときはドナルドダックをダックスフントと呼んだ。いわゆる「ど忘れ」