【読んで学べる神社の話】第3話|悩んだときこそおみくじで、そっと神様にききましょう
➤このお話で学べること
おみくじの引き方って?
おみくじはどんな風に読めばいいの?
★☆★
高校生活っていうのは、もちろん楽しいことも多いけど、それなりに悩みだってある。
言葉にすることが難しいような、得体の知れないもどかしさとか、自分の将来に対する漠然とした不安とか。
それに、学校というのは世の中から見れば小さいコミュニティなのだろうけれど、私たちにとっては重要な小社会だから。
友達との人間関係だって、気を遣わなきゃいけないことは多い。
共に過ごす中では、お互いに、傷つけたり傷つけられたりすることだってある。
そういう時はどうしても、誰かを恨んだり、羨んだり、うとましく思ってしまったりもして……。
自分のそんなちっぽけな感情に気がついてしまうと、私は情けなくてヘコんでばっかりだ。理想の自分になんて、なかなかなれたもんじゃないなぁ、と思う。
最近は、こういうマイナスな気持ちになるときほど、戸或神社にふらっと足が向くようになった。
誰かと過ごすのにも疲れてしまい、かといって、自分一人で悶々と悩み続けるのも苦しくて。
そんな時に行くと、神様の前で手を合わせてみるだけで気持ちが少し落ち着いたし、上手くすれば、いつも笑顔の紫緒さんと話ができて心がやわらかく和むのだ。
今日は土曜日だから学校が早く終わる日だったので、帰りがけにそのまま神社に出掛けると、境内にはいつもよりも人がいる。
お宮参りらしき、赤ちゃんを連れた幸せそうな家族連れとかもいて、遠目にも社務所周りは賑わっていた。
紫緒さんも忙しそうにしているのが見えたので、私はちょっぴり残念に思いながらも、ひっそりお詣りだけして帰ろう、と本殿に向かった。
★☆★
幸いなことに、本殿前はちょうど空いている。
お小遣い生活の私だから、ささやかなお賽銭になってしまうことを申し訳なく思いながら、小銭を御賽銭箱にすべらせて、鈴を鳴らした。
後ろから誰かが並んだときのことを考えて、少し端っこで二礼二拍手、そして手を合わせて目を閉じる。
気持ちがモヤモヤしているときは、このまま深呼吸して、体の中の空気を入れ替えてみるのが好きだ。そうやってから、私は自分の想いや悩んでいることなんかを、胸の中で神様に話してみる。
意思も心も弱い自分の不甲斐なさとか、誰かに対して「嫌な自分」が見え隠れするときの苦しさとか。
神様にはきっと、私の心が透けて見えているに違いないから、取り繕ったって意味ない気がするもの。
そう考えると、私みたいに臆病な人は神様相手だからこそ、正直な想いを素直に出せるのかもしれない。
どうすればもっと自分を好きになれて、自分に自信を持って生きられるようになるんだろう?
神様なら、きっとその答えを知っているはずなのに、それが聞けないのは本当に残念でたまらない。
「あーあ、神様がお返事してくれたらいいのに……」
長めの祈りから目を開けつつ、思わずそんな風にぼやいてしまった瞬間、ちょうど後ろからお詣りに来ていたらしい人の気配を感じてドキッとする。
横を見ると案の定、若い男の人がお賽銭を入れようとした手を止めて、こっちを向いて少し驚いたような表情をしていた。
うわ、やっちゃった……!
この表情から察するに、しょうもない独り言を聞かれてしまったのだろう。
恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら、何も言えずに視線を逸らして、逃げるように立ち去ろうとした時だった。
フッとその人が笑って、社務所の方を指さした。
「お返事、もらえるかもしれませんよ?」
まさか話しかけられるとは思わず、今度は私の方がびっくりして、逃げかけた足が止まる。
意味が分からないままポカンとその顔を見上げると、大学生のような風貌をしているその人は、さらに穏やかな調子で続ける。
「おみくじ、引いてみたらどうですか」
「お、おみくじ、ですか……?」
予想外の会話に、呆気にとられたままオウム返し。
「そう。僕もよく、悩んでいるときほどおみくじ引いて、お返事もらってますよ」
「えっ、お返事もらってるんですか……!?」
信じられない気持ちで、ついつい食いついてしまう。
だって、お返事なんてどうやって……?
「毎回っていうわけじゃないけど、よーく読んでみると、悩んでることに対する返答がおみくじの中に書いてあったりするよ。おみくじを引く前に、神様に“今の自分に必要な言葉をください”ってお願いするとね」
おみくじかぁ……。
私はそれでも、飛びつく心境になれずに考え込んでしまう。
確かに、お正月の初詣では、毎年引いている。
で、でも……。悩んでいる時に引くおみくじで、もしも凶なんて出てしまった日には、激しく落ち込んでしまいそうだし。
こんな時にも、お得意の臆病さが顔を出す、情けない私である。
すると、その単純な思考を読まれてしまったのか、「大丈夫だよ。吉とか凶とか、あんまり気にしすぎないでいいみたいだし」と笑われてしまう。
「僕も、人から教えてもらったんですけど、大切なのは中の“言葉”の方らしくて。読んでみると、確かにそう思うことが多くなったから」
な、なるほど。
まじまじと考え込んでしまっていた私を見て、その人は「あっ、つい。ごめんね、引き止めたりして」と笑顔で話をたたむ。
「い、いえいえ! お詣りの邪魔しちゃって、私の方こそすみません!」
あんな呟きに答えてくれるなんて、親切な人過ぎる。私も慌てて頭を下げて、せめてこれ以上迷惑にならないように、その場を離れることにした。
参道を引き返しながらちょっと振り向くと、お兄さんはお詣りをはじめるところだった。その肩には、大きくて重そうなカメラがかけられている。
若く見えるけど、お宮参りのカメラマンさんとかかな……?
考えながらも、さっき教えてもらった言葉につられておみくじを引いてみることに決めた私は、紫緒さんのいる社務所へ向かう。
見ず知らずの人からだけど、せっかく機会をもらったんだから、試してみるのが吉かもしれない!
★☆★
「あっ、紬ちゃんだ。こんにちは」
近づく私に気づいて、紫緒さんはすぐさま挨拶してくれた。
「こんにちは。あの、今日はおみくじ引いてみようと思うんです……」
この神社では初めてのことだったから、なんとなく照れくさくて早口になる。
紫緒さんはニッコリ笑うと「どうぞ」と言って、目の前にある「おみくじ」と書かれた六角の筒を差し出した。
天井部分にあけられた小さな穴から、細長い木の棒が飛び出てきて、その棒にくじの番号が書いてあるタイプ。
シャカシャカと木がぶつかり合う心地良い音を立てて、筒を左右に振り逆さまにすると、間もなくぴょこっと棒が顔を覗かせる。
引っ張り出すと、そこには「六」の文字。
「あっ、6番お願いします!」
紫緒さんが「はい、6番ですね」と頷いて、すぐに棚から紙を一枚差し出してくれ、私はそれをドキドキしながら受け取った。
恐る恐る開くと、そこには「小吉」の文字。
うっ、小かぁ……。
いつもの癖で、その部分が一番に目に飛び込みしょげかけたものの、今日は慌てて気を取り直す。
さっき言われたとおり、その下に書かれた、言葉の方に慎重に目を向けてみた。
『春の花、秋の紅葉をよそにして、一心に励むあなたの努力が報われるときが、もうそこまでやってきています。
信心を怠ることなく、明るい気持ちを持ってすすみましょう。』
……あれっ?
なんだか、「小」という印象にしてはうれしい言葉が並んでいるので、驚く。それに、その下にある「学業」とか「旅行」とかの項目も、悪くない。
ふと気がついて紙の裏側を見てみると、縦長のおみくじ全体に大きく書かれた【神の教】なるものまである。
そして、それを読んだ私は、その内容に度肝を抜かれてしまった。
『胸のむら雲、はらえばすぐに、神の光がてりわたる。
苦しい時、悲しい時、腹立たしい時、胸に手をおいて考えて見る。
すまぬ事、悪い事、恥ずかしい事、神様の御心に副わぬと思う事があれば、神様に御詫びをする。
御清めをする、御祈りをする。
すると屹度(きっと)、苦しみも薄らぎ腹立ちも和らぎ、心の底から喜びが湧いて、倖せがやってきます。』
読み終えた私が、あまりに驚いた表情で顔を上げたからか、紫緒さんも目をぱちくりさせてこっちを見る。
「すごい……」
呟いて、もう一度目を伏せ読み返す。
私にはこれが、まさしく「今日の私の問いかけ」に対する、神様からのお返事に思えてしまったのだ。
苦しい時、悲しい時、腹立たしい時は、胸に手を当てて考える。
そして、すまぬ事、悪い事、恥ずかしい事があったら、神様にそっとお詫びをする。
……そっか、そうだよね。誰だって、完璧に生きられるわけじゃない。
足りないことも多いし、間違えることだってあるはず。人生の選択に迷うことも、ちょっとしたことで悩むこともある。
でも、その度にちゃんと考えたり、神様にごめんなさいってしながら、歩いていくしかない。
単純かもしれないけれど、あまりにもそのアンサーがしっくり来ているように思えて、私はあのお兄さんとの出会いにも「意味」のようなものを感じて鳥肌が立った。
本殿の方を振り返って見ると、その人はちょうどお詣りを終えて、真っ直ぐに帰っていくところだ。
目が合うと、私がおみくじを引いたことに気がついたのか、ニコニコ笑って手を振ってくれた。
あれはもしや、神様のお使いの方じゃなかろうか……と馬鹿なことを妄想しつつ、感謝を込めてヒラヒラと手を振り返す。
「素敵なこと、書いてありました?」
そんな私にクスッと笑って、紫緒さんがうれしそうに訊ねるので、興奮冷めやらぬままに私は何度も頷いた。
「言葉との出会いも、数ある“ご縁”のひとつだから。紬ちゃんのことを、神様も応援しているんじゃないかな」
やっぱり、戸或神社はすごい。いつだって、私に前を向く力をくれる気がする。
私はおみくじを丁寧に折りたたんで、それをお財布に大切にしまう。
くじけそうな時は、これを読み返そう。
そうしたら、「情けない自分」になりかけたときも、私はまたがんばれるような気がした。
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➤紫緒さんのおさらい
このコーナーでは、物語の中で登場した、神社にまつわる知識のおさらいをしていきましょう!
★Point 5【おみくじの引き方】
おみくじって、神社に足を運ぶと、なんとなく「引いてみようかなぁ」と思うことがありますよね。
初詣のタイミングで、一年に一度の「運試し」のような感覚でおみくじを引かれるという方も多いようですが、特に「一年に一度じゃないとダメ」と決まっているわけではないんですよ。
むしろ、神様からの声を聞きたい迷える時や、自分自身の節目を感じる時など、折に触れて神様からのメッセージを受け取ってみてください。
もちろん、時には胸がチクッとなるような激励をいただく時もありますけれど……。それも、あなたの人生がもっと善い方向に向かうように、という「愛」あればこそです!
おみくじを引くときには、ぜひ御本殿でお詣りする際に「おみくじを引きますので、私に必要なメッセージをください」とお祈りしたり、もしくはおみくじを引きながら「悩んでいることについて、お返事をいただけたらうれしいです」などと念じてみたりしてください。
神様というのはあなたを助け、導いてあげたいと思ってくださる、あたたかな存在ですから、必要なタイミングで、必要なメッセージを届けてくださることでしょう!
★Point 6【おみくじの読み方】
神様からいただける「言葉」の贈り物、それがおみくじです。
ともすると「大吉」か「凶」かなど……「吉凶」ばかりに一喜一憂しがちなものですけれど、そこだけ見ておしまいにするのはもったいないんです!
むしろ言葉の方にこそ、あなたを励ましたり、忠告してくれたり、そっと背中を押してくれるような内容を見つけることができるはず。
そう言う私も、何度もおみくじを通じて、神様に導いていただいた経験があります。
また、もし引いたばかりのその瞬間にはピンと来ない言葉があっても、すぐに結んで帰ってしまわずに、大切に持ち帰ってみてくださいね。
後日、改めて読み返してみると思わぬ気づきがあったり、相応しいタイミングで大切なことを思いだすきっかけになったり……。
きっと、さまざまな場面で、あなたを助けてくれますよ!
それでは皆様も、素敵な神社のひとときを……。
※この物語はフィクションです。
実在の神社様や人物とは一切関係ありません。
➤Story Link『とある神社ものがたり』
予 告|紺野うみの「まえがき」と「ごあいさつ」
第1話|もし心がつらい日は、癒しの杜へ行きましょう
第2話|お祀りされている神様の、素敵な個性を知りましょう
第3話|悩んだときこそおみくじで、そっと神様に訊きましょう
第4話|comming soon...