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「夏へのトンネル、さよならの出口」(劇場)感想。

「夏へのトンネル、さよならの出口」(劇場)感想。

(2022-09-10 MOVIXあまがさき・シアター4)

 この映画、予告編が1ミリも面白くなさそうだから期待せず観たら、これただの「君の名は。」じゃねえかw

いやもう、あんずが満点で好みの女の子だったのと背景美術が素晴らしすぎると思ったら草薙さん(「あの夏で待ってる」「のんのんびより」他担当)だと!納得の美術だったな。

内容的にボーイ・ミーツ・ガールの王道を行く満点のSF恋愛ドラマと思うので「君の名は。」が好きだった人には是非とも観て頂きたいまさかの傑作でした。

SF的設定を扱ってるんだけれど、似たような感じを与える「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の肩透かし感や、「HELLO WORLD」ゴリゴリのSFオタク・アニメオタク向けなテイストは一切無く、一般人が特にSFを意識しなくても普通に内容が理解できてハマれる作品だと思います。

それでいて私のようなSF好きも楽しめる「まさにSF」としての面白さも含んでいるんですよね。

ただただ観てさえくれれば良さが分かるし、初動でそれなりの観客が入ればあとは口コミとリピーターで多くの観客が入るのに…ってのは去年の「アイの歌声を聴かせて」でも思った点だなぁ(^_^;)

「アイの歌声を聴かせて」と「夏へのトンネル、さよならの出口」に共通しているのが「予告編で面白さが伝わってない」点。

これは予告編の作り方の失敗も有るんだろうけど、もし良い予告編になってたとしても観客動員数にはさほど左右してなかったんじゃないかな?と思える点も同じか。

 そう、この映画の予告編全く面白くなさそうだったんですよね(^_^;)

内容的に何か気になる設定だったので映画館に観に行ったのですが、予告編を観る限りじゃ面白そうな所が1ミリも感じられなかった。

「なら、なんで観に行ったんだ?」って話だけど、基本映画オタクでアニメオタクだから「劇場版アニメ映画は出来る限り観よう」って意識があったのと内容的に気になる点があったからですね。

いや、その自分の行動に感謝しか無いw

内容的にはカオルの家庭環境が重い設定だったのがけっこうマイナスだったので、トータルとしては年間ベスト3には入らないがベスト10には入る見事さでした。

内容に関しては「ネタバレ」以降で。まずは内容に関係ない部分で素晴らしかった点を。

何と言ってもヒロインのあんずのキャラがルックス的にもう最高にドストライクで堪らなかったってのがありますね(^_^;)

黒髪ロングでセーラー服の似合う美少女、だけど親しみのある目「じゃない」鋭さと冷たさのある目が良いのだよな。

花城あんず


そして背景美術。

冒頭から背景美術が細かい所まで見事で「素晴らしいな」と思って目が釘付けになったのだが、エンドクレジット観ると「あの夏で待ってる」や「のんのんびより」で緑豊かな風景で感動させてくれた草薙さんが担当していると分かって「なるほど。さもありなん」と得心した次第。

内容に関しては好みも有るだろうしハマるハマらないは有るだろうけど、この背景美術の良さはおそらく誰もが納得する素晴らしさだろうと思う。




※以下、ネタバレがあります。




 さて内容です。

 本作は「時間と引き換えに何かを得る」話ですが「中に入ると外の時間が早く進む(中の時間が遅く進む)」ってのはSF好きからすると「ウラシマ効果」となんら違わないものであり、そこから導かれる「中の人間と外の人間の時間の流れの違いが生み出す感動」と言う意味では宇宙空間でのウラシマ効果をテーマにした新海誠監督の「ほしのこえ」を強く思い出しました。

あの作品は宇宙空間を舞台にして実際に科学的理論で「ウラシマ効果」を描いて男女間の距離を時間と物理的距離で描いていた傑作なのですが、本作「夏へのトンネル~」も設定的にはファンタジー要素の方が近いのですが、得られる効果はSFジュブナイルが持つ感動そのものであったと思います。

ひとりトンネルに入ったカオルと取り残されたあんずの関係性。

メールを元に、カオルは外のあんずがその後漫画家になって連載して単行本まで出して夢を実力で叶えているのを知る。

もう一方のあんずはカオルの事を想いつつ、まずは自分の夢を実力で勝ち取る方に全力を注いで成功するも、そこで力尽きたのか燃え尽きたのかスランプっぽい状態に陥っている。

互いの時間の距離感がそのまま物理的距離感ともイコールになっていて、相手が戻って来ない限り再会できないってじれったさは待つ側からすると延々と続く煉獄のようなものかも知れない。そこであんずは辛くなってあの状態になったんだろうな。

さて「ウラシマ効果」による「距離と時間」と、旅立っていった者と残された者の話で言うと「ほしのこえ」ともうひとつクリストファー・ノーランの「インターステラー」もあるかな。そして「インターステラー」と非常に似た感覚を味あわせてくれる星野之宣の短編「遠い呼び声」も思い出したり。

本作「夏へのトンネル~」が気に入った人は是非とも、新海誠監督の「ほしのこえ」を観ていただきたいです。

 さて、この作品が感じさせる感動の大きさは「切なさ」だと思う。

大ヒットした「君の名は。」があれだけ口コミとリピーターで観客動員数が上がって長期間ロングランしたのも、そこに「切なさ」が大きく存在していたからだと思う。

カオルとあんずの関係性は初期段階から惹かれ合ってる要素が強く見えるんだけど、期間が短いのでまだそこまでの関係性に至って無いってのもあるし、互いの(特にあんずの)素直じゃない性格も災いして好きだと言えずにいた。

後半でカオルがメールで「好きだ」と送ったのは遅すぎたと思うんだけれど、あのタイミングだからこそドラマとして切なくて感動があるんだよなぁ。そして「君の名は。」の手のひらの文字のシーンと同じ感慨をこの部分で味わって堪らなく切なくなった次第で。

その「愛」をずっと一途に持ち続けていたので、7年後に7年前と変わらない高校生の姿のカオルが目の前に現れた時も、20代半ばになってるあんずは一切躊躇なくキスしたのだと思う。

TV放送とかだったらネットの実況で「年齢差はどうなのよ?」とか突っ込まれそうな場面だけれど、それを言えば「君の名は。」も年齢差が生まれてたよな、関係ねえじゃんとしか思わなかったので全く違和感なく「ああ、互いの想い人と再会できてキスできたって幸せ過ぎるじゃないか!」と大大大感動したわけで(^_^;)

 あとSF的設定で言えば、SF好きの私が地味に好きだった点はトンネル内の時間遅延効果を2人が何度も細かく秒単位で試す計測実験を繰り返していたシーン。

あれはまさに「SF」だよな、とw

他の作品だったらもしかしてもっと大雑把に描かれているかも知れない点を細かく秒単位で調べてトンネルの向こう側はどうなっているのか?と山を登っていったりとかなり詳しく調べている。

この点はどこか「ペンギン・ハイウェイ」のアオヤマくんの研究者タイプな描写に似ている感じもあるかな。

 物語的にひとつだけ残念だったのは、主人公カオルの家庭の問題がシビア過ぎた点。

家族が亡くなった事、しかも幼い妹が亡くなったって点とそれを父親が受け入れられなくて酒浸りになって息子に暴力振るいまくるって部分が、後半の感動の大きさに較べて「ダメな邦画にありがちな暗い・重いだけのテーマ」をこの作品に持ち込んでしまったしんどさが感じられた点かな。

ただ、トンネルの中で2人が時間と引き換えにして(下手したら自分と周りの社会との繋がりを失ってしまうほどの年月と引き換えにして)手に入れたいもの、ってテーマを考えるとドラマ的には「亡くなった家族や恋人」に集約されてしまうのは間違い無いと思う。

その点であんずの望みはカオルに較べて非常に弱いものなのだが、実はその点がストーリー後半で「トンネルは願いを叶えるものではなく「失ったものを取り戻す」ものだ」とカオルが気付いた時点で、あんずの「能力を手に入れたい」は(昔の破かれた原稿は手に入れても)叶えられない願いだったのだし、だからこそ逆に彼女が才能を生かしてその後7年かけて積み重ねた実績は自分の力で勝ち得たものであるって感動があるわけですね。

 あとカオルの妹カレンのキャラクターが出来すぎな程に出来過ぎな愛らしいキャラクターだったのも良かったな。余計にカオルが妹を失った苦しみが理解出来て。

ただ、もしインコと同様に妹ちゃんも戻ってきていたとしたら、それは本当に「本物の妹」なんだろうか?とかお父さんや世間は死んだ妹が当時のままの姿で登場したら受け止められるのだろうか?とか「ペット・セメタリー」な展開じゃね?とか色々といらぬ事を考えてしまいました(^_^;)

 作品として「君の名は。」と似た感慨と切なさと感動が得られたのだけれど「君の名は。」クラスの作品か?と言い切っちゃうと大げさなので「小粒な「君の名は。」だ」と言い換えるべきかな(^_^;)

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