父が踏んだものは
ACに気づく少し前、父に大型の家具を頼まれた。
外で使うものだから古くていい、できるだけ安いものをとのことで、フリマアプリで購入し、車で1時間程のお宅に取りにいくことに。引き取りには母の車を借りることになり、手術後でムリはできないが運転くらいは大丈夫と言ったので母も着いてきてくれて3人でいった。
家具は助手席をいっぱいまで前に出し、後部座席の足元に乗せた。運転席は母、運転席の後ろは父、助手席後ろには私がアタリマエのように座った。私の席は足元に家具があるから胡坐をかいてしか座れなかった。
その後、私が予約した引取宅近くで有名なうなぎ屋へ。予約をしたのは待たされるのが嫌いな父のため。うなぎ屋にしたのはチェーン店を嫌がる父のため。
家具の5倍程の値段になったお会計は父が堂々と支払った。それを私と母は「ご馳走様です」と笑顔で言った。新品の家具を買えば、車に積んである家具+うなぎのお会計くらいの額だった。
そこから高速で30分程。帰路、父は寝ていた。
到着すると小雨が。母は重い物が持てず、後日にできないというので、そのまま私と父で設置することに。思ったより狭い設置場所に2人で運ぶ時、父は私の足を踏んだ。わざとじゃないのはわかった。ただ息が合わなかっただけ。設置場所の安定が悪く、ブロックなどで整える時、父は勢いよく砂を払い、隣にいた私の足にかかった。「ちょっと!かかったよ!」と文句を言うと「ご無礼しましたー(父の口癖)」と心のこもっていない謝罪の言葉を投げられた。
雨は止まず、濡れながらの作業になった。あーでもない、こうでもないと家具を動かしていると、父が私の足を踏んだ。踏みつけた。軽くではない、ダンッ!っと。悪気がないのは知ってる。父は動きの大きいガサツな人。雨で濡れた砂地を歩いた父の靴の裏は、私のお気に入りのスリッポンの甲に焦げ茶色のシミをつけた。カッときて、「もう!足踏まないでよ!よく見て動いてよ!」と少し大きな声を出した。父は「はぁ、ご無礼しましたー。そんなとこにいるから・・・」と悪びれず言った。「・・・」には(だからお前が悪い)が続くような言いぶりだった。スンッとなった。
雨が強くなり、微調整は後日1人でやれると言われ、作業終了した。
自宅への帰路、私はとんでもなくモヤモヤしていた。
その時、理由はわからなかった。父に頼まれ、条件に合うものを見つけ、引取りの段取りをし、仮ではあるが設置ができた。心配していた出品相手との当日のやりとりはうまくいき、おいしいうなぎも食べられた。無事ミッションクリアである。なのに、なぜこんなにモヤモヤする・・・。
ACだと気づき、振り返る中で、この出来事は「答え合わせ」のひとつになった。
父はもう忘れているだろうが、あなたが踏んだものはたかが靴じゃない、私の心だ。
「家族の幸せが私の幸せ」と、家族の役に立ちたいという純粋な子の心。
今まで何度も何度も、雑に、どうでもいいようなもののように、「子にも心がある」なんて考えが1mmもないような扱いをされた。
それでも「父だから私を愛していないわけない」で、私は許した。いや、許したつもりでいただけ。許さないという感情を押しのけて理性で許したこととしていただけ。
だから、あの日の帰路、私はモヤモヤした。「大切に扱ってくれない人に尽くしてバカみたい」そう思えれば生まれなかったモヤモヤだと思う。
コーデュロイのような少しモコモコした素材でできたスリッポンは、泥がこびりつき、拭いても落とせなかった。お気に入りだったがあれ以降履かなかった。どうしても捨てられず約1年靴箱にしまっていたが、先日断捨離の勢いで捨てられた。大切に履けなくてごめんねって気持ちを込めてゴミ袋に入れた。もう未練はなかった。