週間少年マガジン原作大賞応募作品【名探偵はVtuber】第二話
次の日の朝、学校へ行く準備をしているとスマホに通知が届いた。
加藤理沙:朝予定が入ったから放課後でも大丈夫?
放課後に特に予定は無かったので大丈夫と返信した。
するとすぐに既読が付き、OKと猫のスタンプで返事が来た。
「そろそろ行かないと……」
バッグを持ち、部屋を出る。
「いってきます」
誰もいない家に向かって呟くように言う。
学校に着くと、教室には既に何人かクラスメイトが集まっており談笑していた。
自分の席に座り、持ってきた本を読む。
読書に集中しようとしたその時、誰かが肩に手を乗せてきた。
「おはよう、颯太」
「あぁ、おはよう」
彼は隣の席の男子生徒で、よく話したりする仲だ。
「昨日の配信見たか?」
「もちろん」
「あれはヤバかったな、またファンが増えそうだな」
彼の言うとおり、昨日の配信はかなり好評だった。
事件の謎が解けるかと思えば、全く別の方向へと話が進んでいき、結局犯人は分からずじまいで終わってしまった。
コメント欄では惜しみ無い拍手のコメントが送られていた。
「そうだな、凄かったよな」
適当に相槌を打ちつつ、本のページをめくる。
「それでなんだけど……お前、昨日の事件解決してくれないか?」
「断る」
即答する。
「まだ何も言ってないだろ!?」
「どうせ、俺に協力して欲しいんだろう?」
「そうだ、頼むよ〜」
両手を合わせ、頭を下げてくる。
「嫌だよ、面倒臭い」
「あの事件を解決出来たら有名人になれるぞ」
「興味ない」
「今度のテスト、教えてやるよ」
「…………」
「な?良いだろう?」
「仕方ないな……少しだけだぞ」
「ありがとう、恩に着るぜ!」
皆が登校してきた。朝のHRが始まる時間なので、それぞれが自分のクラスに戻っていく。
俺は本を鞄にしまって机の中にしまう。
担任の教師が入ってくる。
いつものように出席確認をして、授業が始まった。
昼休みになり、昼食を食べるため屋上へ向かおうとした時だった。
ポケットに入れているスマホが振動し、画面を見ると加藤からの着信だったので電話に出る。
彼女から伝えられた場所は図書室だった。
そこへ向かうと既に加藤が待っていた。
ガラガラッ ドアを開けると、彼女がこちらを振り向いた。
「人気者が昼休みにこんな所に居てもいいのか?」
「昼休みに友達に会いに来るのは変な事かな?」
質問を質問で返された。
だが、彼女に笑顔で友達と言われると反論が出来ない。
「変では無い」
加藤の取り巻き達に見つかると、俺が面倒なんだよ。と頭の中で思っていた。
「それより用件は何だ?」
「友達に会うのに用件とか必要なの?」またもや同じことを言われる。
「必要だろう、少なくとも俺には」
「私にはないよ」
「……そうかい」
「そんなことより、事件の話じゃないのか?」
「それは放課後って連絡いれた筈だけど」
確かにそう言われた気がする。
「そういえばそうだったな」
加藤は溜息をつく。
「颯太くんって意外と抜けてるよね」
「放っとけ」
「最近オススメの本とかない?」
「急に何の話だ?」
「読書感想文の課題が出たから、何か参考になる本が欲しいなって思って」
「そう言われても、あまり詳しくないからな」
「じゃあ、これは」
俺は本棚から一冊の小説を取り出した。
「これは有名な小説だね」
「そう」
「うん、読んだことはないけど名前は聞いたことがあるよ」
「前に読んだ時結構面白かった気がする」
「そうなんだね、読んでみるよ」
「それなら良かった」
その後、彼女と他愛もない会話をしていたらチャイムが鳴った。
午後の授業開始の予鈴だ。
彼女は立ち上がり、スカートを軽く叩く。
そして教室に戻る途中、彼女は振り向いて言った。
───またね 彼女の言葉を聞いて、一瞬ドキッとした自分に腹が立った。
帰りのHRも終わり、帰っている時。
後ろから誰かが近づいてきた。
振り返ると、そこには加藤理沙がいた。
加藤は俺の顔を見てニヤッとする。
そして俺の腕を掴み、引っ張るように歩き出した。
「おい、何処に行くつもりなんだ?」
「いい所」
そのまま腕を引っ張られ、俺は加藤に連れて行かれた。
「ここって……」
連れて来られた場所は最近新しく出来たカフェだった。店の中に入ると、店員さんに案内されて窓際の席に座る。
「ここはパンケーキが美味しいらしいよ」
「詳しいんだな」
「クラスの子から聞いてね」
「なるほど」
「それで、事件の謎は解けたのか?」
「全然、まだだよ」
「そうか」
「颯太くんは解きたいと思う?」
「興味はない」
「本当に?」
「本当だよ」
「ふーん」
彼女はメニュー表を手に取る。
「私はこのスペシャルパンケーキにする」
「俺はコーヒーだけで良い」
「遠慮しないで頼んで良いよ」
「いや、大丈夫だ」
「分かった」
加藤は呼び出しベルを押し、店員を呼んだ。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「はい、これとこれをお願いします」
加藤は指で2つを指しながら、オーダーした。
「かしこまりました、少々お待ち下さいませ」
数分後、注文していた品が届いた。
「うわぁ、美味しそう!」
加藤は目を輝かせていた。
俺はコーヒーを一口飲む。
兄貴の部屋から持ってきたUSBメモリをパソコンに繋いで加藤に渡した。
その後、加藤は30分程パソコンの中の情報を覗いていた。
「それで、犯人の目星はついたのか?」
「それがさっぱり」
加藤はナイフとフォークを使って、食べやすいサイズに切り分けて口に運ぶ。
「はむっ……美味しいっ!!」
幸せそうな顔をしながら食べる彼女を見ていると、こちらまで幸せな気分になった。
「何見てるの?」
「別に何でもない」
「そっか」
しばらく沈黙が続いた。
「ねぇ、事件の事なんだけど」
「なに?」
「私の力だけだと無理そうだから…愛ちゃんの力を借りようと思う」
「あのメンヘラ野郎の?」
「うん、情報がもっと無いと無理そう」
愛とは一般には出ない情報のやり取りをする、情報屋の事だ。
「俺がまた取引するのかよ」
「私だと情報を渡してくれないから」
愛と加藤は仲が悪く、いや愛が一方的に加藤を理不尽な理由で嫌っている。
「わかったよ」
俺は携帯の連絡先から愛を選択して、電話を掛けた。
「もしもし」
「あんた誰」
「いや、分かるだろ、颯」
「キモ…電話掛けてこないで」
電話を切られた。もう一度電話を掛ける。
すると電話に出てくれた。
しかし、声のトーンが低い。
明らかに機嫌が悪い。
加藤の方を見ると、苦笑いしながら俺に向かって手を合わせて謝っていた。
そんな彼女を無視して、話を進める。
今回の依頼内容を伝える。
「あの女と一緒に居るの?」
あの女とは加藤の事だ。
「居る」
「大事な事は早く言いなさいよ、ゴミ虫が」
愛のテンションが一気に上がった。
「家に居るから来て」
電話が切れた。数秒後にメールが届く。
そこには住所と部屋番号が書かれている。
加藤にもその画面を見せると、彼女は小さくガッツポーズをした。
5分後、指定された場所に着くと、インターホンを鳴らす。
玄関のドアが開くと、中から出てきたのはゴスロリファッションに身を包んだ女の子だった。
身長は150cmぐらいだろうか?髪の色は黒にピンクのインナーカラーでツインハーフ、肌は真っ白だった。
人形のように整った顔をしている。
彼女の名前は愛(あい)。
本名は知らない。
年齢は分からない。
ただ、見た目は10代後半に見える。
「遅い」
「悪い」
「愛ちゃん、久しぶりだね」
「久しぶり」
愛は俺らには凄い塩対応だ。加藤の事は嫌いらしい。
何故なのかは分からない。