「孫子の兵法」に学ぶスピーチ 空気に色を付け「見える化」する技術(10.地形篇)
前篇「9.行軍篇」において、スピーチやプレゼンにおいては、「自らの得意なやり方で話す」と述べた。
「戦術論」的な話は、これも前篇で述べたように「結婚式のスピーチ」「葬式」「会社行事」「選挙演説」「商品説明のプレゼン」などの状況ごとに検証するのが適切であろう。
一つだけ、「結婚式のスピーチ」における具体的な方法論を述べる。
「自分が不利な地形のところには侵攻しない」という、戦争における原理原則からいえば、次のような場合、結婚式において「(語りかける)パブリックスピーチ」を行わない方がよいであろう。
1.話し慣れていない
2.結婚式に出席する機会が多い。その都度話すスタイルを変えてしまうと「人によりえこひいきをしている」と受け取られるデメリットの方が大きい。
3.部下である新郎(もしくは新婦)は、褒めるところがない人物、フリーなスタイルで話してしまうと、ついつい皮肉やいじる内容の話になってしまい、親戚から反感を買うリスクがある。
さらに具体的なテクニックの話になるが、結婚式において「(紙などを)読み上げるスピーチ」を行う場合には、持つマイクではなく、必ず立てるスタンドマイクを式場に用意してもらい、和紙による筆書きの原稿を読み上げる形を取り、スピーチを結んだ直後に、新郎新婦にプレゼントしてあげる形をとるのも効果的であろう。
正々堂々とカンニングをすることができ、パブリックスピーチを行う人とは、また違った意味での「気遣い」をアピールすることも可能である。
繰り返しになるが、「(語りかける)パブリックスピーチ」にするか「(紙などを)読み上げるスピーチ」で話を行うのかは、「手段」であり、「目的」はあくまでも、「リスクを最低限に抑え、自分の身の丈に合う形でリターンを最大化させる」ことである。どのようなスピーチやプレゼンテーションにおいても、このことを忘れてはならない。
さて、戦争において敗北を招く状態について『孫子の兵法』においては、六つの状態があると説明している。
1.味方とライバルが互角であっても、団結力や連携の不足により、実際には「1対10」ぐらいの状況で戦う羽目になった場合。
2.スタッフはしっかりしていても、リーダーが軟弱な場合。
3.リーダーはしっかりしていても、スタッフが頼りない場合。
4.トップとリーダーの関係が悪く、リーダーがトップの命令に従わず、勝手にライバルと戦い、トップもリーダーの力を認めていない場合。
5.トップが軟弱でいうべき時に言う勇気を持たず、決定事項も曖昧で、リーダーの統制が取れていない場合。
6.トップがライバルの状況を把握することができず、すぐれたライバルにやみくもに戦いを仕掛け、精鋭といえる人材が欠けている場合。
スピーチやプレゼンテーションを行う人は、必ずしも組織のトップばかりというわけではないが、「(味方や協力者との)団結なくしては勝利できない」さらにいえば、「自分自身の意思統一ができていなければ、いい仕事はできない」という点においては、大いに参考になるのではないだろうか。
スピーチやプレゼンを成功させるには、「普段から勝てる体制を構築する」ことが大事であるということも、以前述べたことであるが、不変の真理といえるだろう。
「地の利を生かす(自らの得意な内容を話す)」といっても、結局のところ鳥が上空から全体を見渡すようなアプローチで、総合的に考えて判断をすることが必要になる。
広い視野を持つものは、スピーチやプレゼンテーションを成功させることができるが、そうでない人は必ず失敗するであろう。
冷静に状況を判断した上で、自分が「勝てる」と判断した時には、たとえ周りに感情論で反対されても無理に押し切って、スピーチやプレゼンを行うのがよいであろう。
同じことは、周りが「空気」や「気分」で盛り上がっている時に、あえてスピーチやプレゼンを中止するという判断にも通じるであろう。
目先の感情や名誉にとらわれず、本当の勇気を持つ人は広い意味でいえば、社会全体にとっても必要な人材といえるであろう。
協力してくれる人や、スピーチやプレゼンを聞いてくれる人の心を掴むには、時には親が子供を慈しむような思いを持つことも必要である。その反面、いうべき的にいう勇気を持たなければ、いざという時に相手を救うこ ともできなくなる。
このことは、「人の経験に学びながらも、言葉のプロとして言うべきは言う勇気を持つ」ことが必要なスピーチライターとクライアントとの関係においてもいえることである。
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