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「孫子の兵法」に学ぶスピーチ 空気に色を付け「見える化」する技術(9.行軍篇)

 スピーチやプレゼンにあたっては、「自らの得意なやり方で話す」「ライバルや聴衆の状況をつかむ」のが原則である。
 今述べたことは、いわば「戦術」であり、過去の事例は様々な角度から検証され、ノウハウとして蓄積されている。
 しかし、「戦略」を無視して「戦術」だけにとらわれると、往々にして「恥をかく」「場の空気を読み違える」「スピーチの専門家の言われるままに大金を払う」という失敗をしてしまいがちなものである。
 例えば、聴衆の注目を集める一つの戦術として、「あの人はいつ話し始めるのか」というぐらいに待ってからスピーチを始める手法がある。このテクニックは1933年、ヒトラーの首相就任演説において使われた方法であるが、仮にこのやり方を結婚式の友人スピーチにおいて行ったと仮定してみよう。
 まず前提条件として、結婚式における主役はあくまでも新郎新婦である。自らがカリスマ的な存在感を発揮することが求められるのは、政治家における選挙の演説などがあるだろうが、結婚式においてヒトラーの方法を模倣しても奇異な印象を与える可能性が高いだろう。
 さらに忘れてはならないことは、式次第の前後においてスピーチを行うであろう、新郎新婦それぞれの主賓や、もう一人の友人の存在である。
 結婚式で挨拶をする人は、人前で話しなれていないことが多く、中には「あがり症」「うまく話せない」さらには「過去のスピーチで失敗しトラウマになった」など、大変なプレッシャーを感じながら当日を迎えた人も多い。
 そのような人たちの前後において、「ドヤ顔」で「劇場型のスピーチ」を行ったとすればどうだろうか。
 すでに話を結んだ二人の主賓は、「本当に自分のスピーチでよかったのか」と疑心暗鬼になり、中には生きた心地がしない人もいるかもしれない。
 さらに「劇場型のスピーチ」をした人の後に、もう一人の友人がスピーチを控えている場合には、緊張が極度に達し、「心の監獄」にぶち込まれた思いを抱きながら、「その時」を迎える可能性すらあり得るのではないだろうか。
 すでに各篇において、「リスクを最低限に抑え、自分の身の丈に合う形でリターンを最大化させる」ことが、スピーチを成功させることであると繰り返し述べてきた。
 結婚式における「リスク」とはつまるところ、新郎新婦と来場者に「アンハッピーな思いを感じさせる」ことであるが、「リターン」の伸びしろは果たしてどれだけあるのか、最初にも述べたように「主役はあくまでも新郎新婦」であることを考えれば、テレビドラマの俳優気取りでカリスマ的な存在感を発揮しようと立ち回ることは、「身の丈」を理解していない愚かなふるまいといえるのではないだろうか。
 本篇の冒頭に書いた「自らの得意なやり方で話す」「ライバルや聴衆の状況をつかむ」ということを、例えば「結婚式のスピーチ」「葬式」「会社行事」「選挙演説」「商品説明のプレゼン」などの状況ごとに整理し、ノウハウとして体系化することは意味のあることである。

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