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母と息子の名誉挽回のために、私は四角い箱を叩く!

実録!50の手習いです。
「三つ子の魂百まで」を還暦カウントダウンのオッサンが挑む再現ドラマです。

どうせなら大きく出ようじゃありませんか!

「もし良かったら、カホンでリズム取らせてくれない?」
「いいですよ。曲、何やります?」
「君の持ち歌に合わせるよ」

4年後の私は……
とある地方都市の駅前で、
弾き語りの若いストリートミュージシャンと、
こんな会話を交わすだろう……たぶん。

ちなみに4年後、私は還暦を迎えます。

息子の一言で、母の一言を思い出した!

6日前――
「小学生から、英語を勉強しておけばよかった」
と、27歳になる息子から言われました。
12年前――
「ごめんね、音痴に育てちゃって……」
と、老いた母に言われました。

私は、音痴です。
12年前のお正月、家族で行ったカラオケボックスで、矢沢永吉の ♪ 長い旅を唄い終えた私に言い放った母の言葉を言い訳に使わせてもらいます。

どうやら、音楽脳が未発達なのは
母の育て方に問題があったらしい!
母のせいだ! 母のせい? 母の……。

私は音痴です。
人前で唄うことを避けてきました。二次会のカラオケボックスも地方のスナックも大好きです。だけど、なんやかんやと理由をつけて逃げ続けてきました。
仕事仲間や友人に私の「音楽脳ゼロ」を内緒にしてきました。

人にはそれぞれ得手不得手があります。 

私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面(じべた)を速くは走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のように、
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。

出典|『私と小鳥と鈴と』金子みすゞ

だから、良いのです。
私には、私なりの得意分野があります。
自慢するつもりはありませんが、空間認識をする脳は、とてもとても優れていると自負しております。私が見ている景色を、別の角度から見たらどういう風に見えるか、大体の想像がつきます。
映像監督を生業とする私にとって、この脳力は高性能な最終兵器です。私は、その武器を使って天職につくことができました。
めでたしめでたし。シャンシャン。あとは余命を静かに生きるだけです。

だから、良いのです。
音痴でも、人前で歌えなくても、矢沢永吉の武道館で手拍子がズレていても……良いのです。

いいえ、良くありません。
だって、諦めてしまったら「小学生から、英語を勉強しておけばよかった」と言われた父親は、息子にどう答えれば良いのでしょうか?
「音痴に育てちゃって、ごめんね」という老いた母の言葉を、どう否定すればよいのでしょうか?

だから、良くはないのです。
それよりなりより、私は音楽が大好きなんです。

楽器が演奏出来たら、音楽を楽しめるだろうなぁ。

唄えない私は、いくつもの楽器に挑戦してきました。
御多分に漏れず、まずはギター。ヤフオクで手に入れた安物のギター。
「指が5本なのに6弦弾くなんて、そもそも物理的に無理な話だ!」
と、言い訳をして3週間で挫折しました。

「6弦が無理なら4弦のウクレレだ!」
安物のギターを買おうとすること自体、心のどこかに「弾けなくて、やめちゃうかも」って逃げ道を作っていたのかもしれません。だから、ウクレレは高価なものを買うことにしました。15年前の決意です。
今でもウクレレの練習は続けています。4本弦は正解でした。コードをスムースに押さえることができます。
ウクレレの練習をする傍ら、次々と楽器に手を出しました。
トランペット、オカリナ、クロマチックハーモニカ、そしてピアノ……。
どれもこれも、ことごとく失敗に終わりました。15年間練習しているウクレレもそうです。まともに一曲も弾くことができません。右手のストロークができないのです。
弾いたり弾かなかったりしてリズムを刻むのが、右手のストローク。

「あ、そうかぁ……リズム感が悪いのかぁ……」
私、もがいてます。

「小学生から、英語を勉強しておけばよかった」と息子。
たしかに、語学は三歳までが勝負ですって言いますよね。脳の成長過程を考えても、確かにそうなのでしょう。
「ごめんな、英語教育してやれなくて」
そんなセリフを吐いた私は……あッ!

「ごめんね。音痴に育てちゃって」
母に言われた言葉を思い出しました。

母から私に、
私から息子に、
忌々しい後悔の念をバトンタッチしています。

これを断ち切りたい!
断ち切るためには……「オレが……」

私が、上手に唄うしかない!
次の家族カラオケで、熱唱するしかない!

そんな無謀なぁ……
ムリ! 絶対ムリ!
そんなチャレンジ……どうせ失敗に終わるのだから……。
「ね。やっぱり無理でしょ? 幼少教育のせいでしょ?」を証明することになってしまう。

だけど、やらなければ!
身をもって、息子に「今からでも、遅くないよ。できるよ」を証明しなければ!

私は、4年後還暦を迎えます。
はい! ちょっとだけ妥協します。
できるだけ簡単な楽器を習得します。そして、音楽を楽しむ姿を見せつけてやります。
簡単な楽器を探しましょう。簡単そうな楽器……カスタネット?
いやいや、カスタネットが上手に叩けても、イマイチ説得力に欠けます。むしろ「その程度? ふ~ん」と、笑われて終わりです。
方向性は間違っていない。打楽器だ! メロディーとか絶対ムリだし……
見つけました!
ただの四角い箱の楽器……カホンです。
これだ! これならできるだろう。

河川敷にポツンとカホン

カホンを叩く自分を想像してみました――「おぉ、楽しそうじゃないか!」

冒頭のストリートミュージシャンとの会話には続きがあります。
「もし良かったら、カホンでリズム取らせてくれない?」
「いいですよ。曲、何やります?」
「君の持ち歌に合わせるよ」
私は初対面のストリートミュージシャンとセッションしています。
人々が集まってきます。
その群衆の片隅に息子の姿が……。彼も、私のカホンに合わせて身体を揺すっています。

「楽しかったですね。おじさん、また一緒に演奏しましょうね」
「偶然、ここを通りかかったら……その時は、今日よりも良い演奏ができそうだ」
「おじさん、これからどこへ?」
「どこから来たのか、どこへ向かうのか、おじさんにも分からないんだ。それじゃあ……」
と、トンチンカンな捨て台詞を残して、私は去っていきます。ジャンジャン。
私は、さすらいのカホン奏者です。

夢から覚めました。
うわぁ、現実は厳しい。買ったばかりのカホンは、既にテーブル替わりです。
思い立ったように叩いたら、妻から「近所迷惑だからやめて!」と怒られました。川の土手、ひとりカラオケ「まねき猫」……カホンを背負って練習しに行きます。
私は、ある意味「さすらいのカホン奏者」です。

ウーバーイーツではありません

息子よ! 今に見ていろ!
母よ! 今にみていろ!
今にみてろ! 俺!

偉人の名言

失敗をすることは耐えられるが、挑戦しないでいることは耐えられない。
I can accept failure, everyone fails at something. But I can’t accept not trying.

マイケル・ジョーダン

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