映画『LEON』
1994年に公開され、世界中で大ヒットを記録した映画『LEON』。
本作はリュック・ベッソン監督の名を知らしめる代表作であり、マチルダを演じたナタリー・ポートマンがブレイクした作品でもあります。
制作秘話
作品の公開から29年経った今でも世界中から愛される『LEON』は、今でこそあまり知られていませんが、制作当初から公開後まで、様々な苦労や批判がありました。
そもそも『LEON』は、リュック・ベッソン監督がずっと作りたがっていたSF大作を撮るための資金集めとして作られた作品です。このSF大作というのは、『フィフス・エレメント』として後に公開されましたが、残念ながらこちらはあまりヒットしませんでした。
ちょうど、スピルバーグ監督が、『シンドラーのリスト』を撮るために『ジュラシックパーク』を公開したら、たまたま大ヒットしたのと同じような感じです。
資金集め用のつもりですから、ベッソンはあまり製作に時間をかけたがらず、なんとたった2ヶ月で『LEON』の脚本を書き上げてしまいます。
ベッソンは初期の作品で『ニキータ』という似た映画を撮っており、本作をニキータの別バージョンと位置付けているので、ある程度殺し屋と少女の設定が固められていたこともあるかもしれませんが、これほど大ヒットした映画の脚本を2か月で書いたというのは驚きです。
脚本を書き終えたベッソンは、キャスティングにとりかかります。このキャスティングでも、様々なドラマがありました。
まずは、主役であるレオン。孤独な一流の殺し屋は、フランス人俳優ジャン・レノによって見事に演じられましたが、キャスティング当初は、ブルース・ウィルスに話が持ちかれられていました。
結局、ブルース・ウィルスは出演を断り、後の『フィフス・エレメント』で主役を演じることになります。まさか資金集めの映画がヒットするとは思わなかったでしょうから、ブルース・ウィルスは実に惜しいことをしましたね。
次に、マチルダです。この孤独な少女の演者を決めるのに、ベッソンは大変なこだわりを見せました。
作中のマチルダは12歳の設定ですが、タバコを吸ったり性的なセリフがあったりと、本当の12歳が演じるにはかなり大人びたキャラ設定であったため、ベッソンは15歳頃の女優を求めてオーディションを行いました。
オーディションには2000人もの子役が応募し、入念に演技審査が行われましたが、ベッソンのお眼鏡にかなう子役はなかなか現れません。
落ちた応募者の中には、リヴ・タイラーやクリスティーナ・リッチなど、後のハリウッド女優もいたといいます。
ナタリー・ポートマンも、このオーディションに応募した候補者の1人でした。彼女は当時12歳ながら、ベッソンの書いた脚本に感動して涙を流し、年上の候補者の中に混じって応募することを決意しました。そのため、年齢が低すぎるという理由で一度はキャスティングディレクターから却下されてしまいます。しかし、弟の死を悲しむ演技を見たベッソンが胸を打たれたことにより、起用が決まりました。
彼女は後にハーバード大学へ進学するほどの才媛ですが、12歳で脚本に涙を流したこの頃から、豊かな感受性を持ち合わせていたようです。
起用が決まり、ついに撮影が始まるも、マチルダの不良設定を良く思わないポートマンの親は、ベッソンに起用を取り下げるよう訴えます。しかし、ディレクターとナタリー・ポートマン本人の必死な説得によって、なんとか撮り終えることができたのでした。
公開後の論争
映画が完成し、いよいよ公開の段に入ります。 しかし、この公開に際して、本作は最も大きな選択を迫られることになります。
マチルダの性的なセリフが、当時の倫理観に反しており、ロリコン映画だと囂々たる非難を浴びたのです。
実際のセリフがこちら。
これは、マチルダがレオンに愛の告白をするシーンのセリフです。
これが歳の近い男女であったら実にロマンチックなのですが、12歳の少女が中年男に言うセリフとしては、たとえ冗談だとしても無理があるように思えます。
さらに、マチルダがレオンに初体験を迫るシーン。
これは、あまりにも...。
後に、マチルダを演じたナタリー・ポートマン本人も、「今になって見返すと、とても子供たちには見せられない。自分が性的に見られているのは嫌だった」と語っています。
実際、ベッソンにはロリコン志向があったらしく、元の脚本にはマチルダとレオンが肉体的に恋人関係になるシーンが書かれていたといいます。さすがにこのシナリオは、ポートマンの両親から猛反発をくらい、削除されました。
とにもかくにも、公開とともに倫理的な論争を巻き起こした『LEON』は、ロリコンを連想させるシーンをカットした「劇場版」を放映することになりました。
ノーカットバージョンである「完全版」は現在、サブスクなどでも簡単に視聴することができます。
見どころ
『LEON』は、決して難しい作品ではありません。設定はともかく、復讐劇として見てみれば、簡単に展開も読めますし、アクションシーンもそれほど凝ったものではありません。
しかし、この映画には不思議と惹きつけられる魅力があります。
見どころ① セリフ
基本的に『LEON』は、大人びた少女であるマチルダと、大人になりきれない中年男であるレオンの対比が描かれています。
精神年齢が真逆の二人が交わす言葉は、この映画を象徴しています。
序盤にマチルダが放ったこのセリフ。
自分がまだ子供であることを自覚した前提ですが、子供とは思えないほどの苦悩や人生を悟った態度が表れていて、この一文だけでマチルダのキャラクターが理解できる、本作きっての名台詞です。
この問いに対してレオンは「つらいさ」と答えます。お互いの持つ深い孤独が滲み出る、悲しくもお洒落に感じてしまう名シーンです。
レオンがマチルダの復讐を果たしに向かおうとしているシーンの台詞です。
この台詞は二人の対比関係を端的に表していて、映画を象徴する重要な言葉となっています。
同じく、スタンスフィールドの元に向かおうとしているシーンで、同行を拒否されたマチルダがレオンに向けて放った台詞です。
愛する弟を失って孤独のマチルダが、同じく孤独のレオンに言っている状況を鑑みると、言葉の持つ意味により一層重みを感じます。
マチルダは、実弾を一発だけ込めた銃を自らの頭に突きつけ、これで死ななかったら付いていくと言います。その様子を見ていたレオンは、勝手にすればいいとそっけない態度を見せますが、マチルダが引き金を引く瞬間、マチルダに向かって飛び込み、銃口を逸らせます。発砲された弾は部屋にあった花瓶をバラバラにします。プロの殺し屋であるレオンには、装填する時の音で、弾が入っていることが分かったのです。マチルダは、弾が入っていたことには動揺せず、賭けに勝ったことをレオンに確かめました。
見どころ② マチルダの子供の一面
振る舞いが12歳らしくないマチルダですが、大人びた彼女も、子供っぽさを覗かせるシーンがあります。(完全版)
レオンとマチルダが水を掛け合うシーンでは、マチルダが無邪気にはしゃぐだけでなく、無口で感情を出すことのないレオンも楽しそうにしているところが印象的です。
マチルダがハリウッド俳優のモノマネをして、誰の真似をしているかレオンに答えさせるシーンです。
マチルダは世間知らずのレオンに呆れる一方、様々な扮装を夢中で楽しみ、クイズを出し続けます。
初仕事の成功を祝してマチルダがお酒を飲むシーン。
お酒を飲んで楽しくなってしまったマチルダは、周りの目も気にせず大声で笑い出します。あまりに無邪気な笑い方に、思わず微笑んでしまう名シーンです。
大人びたマチルダが時々見せる子供っぽさは、彼女のキャラクターの大きな魅力であり、我々が思わず惹かれてしまう要因でもあります。
見どころ③ 演技
『LEON』のヒットは、役者の演技力なしではあり得ませんでした。
セリフのあるシーンのみならず、何気ない動きや表情のみのシーンも、とても印象的です。
悪役であるスタンスフィールドが薬をキメる有名なこのシーン。実は、演者であるゲイリー・オールドマンのアドリブでした。
台本にない動きをしたオールドマンの演技を見た周りの部下の驚いた表情は、演技でない分リアルなものになっています。
作中には、マチルダとレオンが並んで歩くシーンが何度か挟まれます。
奥から迫り上がるように歩いてくるだけなのに、なぜか魅入ってしまうのがこのシーンの不思議なところです。
さらに、映画を通じて変化していく二人の関係性が歩く姿から伝わってくるのも、不思議な魅力です。
見どころ④ 小道具
映画には、印象的な小道具がたくさん登場します。
帽子とサングラスのスタイリングや、ガム、タバコなども『LEON』を象徴していますが、他にも度々登場してストーリーを分厚くするアイテムがあります。
レオンが好んで飲む牛乳は、とても印象的です。
なぜ牛乳を飲むのかは様々な意見が交わされていますが、作中何度も登場するこの牛乳が重要なメタファーであることは間違いありません。
映画を見返すと、スーパーに牛乳を買いに行った後に、物語が大きく展開しているように思えます。
マチルダがスタンスフィールドに捕まるのも、牛乳を買いに行った後でした...。
そして、レオンが唯一の友達だと言っていた鉢植えも、彼自身を象徴するメタファーとして印象的でした。
無口で根がないのが自分と同じだというレオンでしたが、マチルダと出会い、天涯孤独だと思っていた彼の人生にも希望が生まれ始めます。
そして、レオンが自らの命を犠牲にしてマチルダの復讐を果たすと、鉢植えはマチルダの手により地面に植えかえられます。レオンはそうして、自分の居場所を見つけることができたのです。
マチルダが植物を大地に植え替えるシーンでスティングの『シェイプ・オブ・マイ・ハート』が流れます。
何度見ても泣いてしまう不朽のラストシーンです。
大人になって見るとまた違う味わいがある『LEON』。後世まで感動を与え続ける名作であることは疑いようがありません。
まだ見たことのない方はもちろん、前に見たことがある方も、再度視聴してみることをおすすめします。
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