札幌ワーケーション紀行 グルメ編(2/2)
前編はこちら。
そんなわけで後編。ある意味本編のグルメレポだ。
「店の評価/感想」はgoogle map食べログその他の方がよく書かれて居ると思うので、どちらかというと「出来事ベース」で、随筆っぽくゆるーく書いてみようと思う。
ちなみにトップの画像は六花亭カフェのサックサクいちごミルフィーユだ。
普通に美味しかったが、話のタネになるイベントがあんま発生しなかったためここで写真を供養する。
食べ方を覚えたスープカレー
GarakuとSuageの有名どころ2店舗に行ってきた。
スープカレーに関しては、実は私はあまりいいイメージがなかった。前に都内で食べた時には「なんとなく味が薄くて食べづらい」と言う感想だった。しかし、札幌で食べてるうちに認識が変わってきた。今までの食べ方に問題があったのだ。
火を通した薄味の野菜や肉を、ダシの効いたスープにつけていただく。。。スープカレーという料理の本質は揚げ出し豆腐なのだと思う。
通常の「味の染み込んだ具材を飯に混ぜて食べる」というカレーの食べ方をすることは想定していないようだ。
そう考えてみるとこの二つの名店は野菜への工夫が面白かった。Garakuではブロッコリーをグリル(もしかして揚げてる?)して、スープを吸いやすくしていた。Suageはその名の通り揚げ野菜がどかどかスープの中に入っており、まさしく揚げ出し豆腐。特に舞茸がスープをよく吸って美味しかった。
ちなみに、この「揚げ出し豆腐」の例えはsuageのカレーを食っている最中に閃いた。そのまんまだ。
昔から作るカレーは大体小麦粉を使わないサラサラしたカレーで、ダシを効かせたものにすることが多かったので、「あれ、俺が作りたかったカレーってもしかしてこれか?」という謎の学びがある体験だった。
ただ、両店ともデカイニンジンが入っているのはちょっと野暮ったく感じた。中までスープが染みない関係上、どうしてもニンジンの強い味がスープに勝ってしまっていた気がする。
まあ、私はそもそも煮物のにんじんやグラッセがあんまり好きじゃないのでこの辺は完全に好みの範疇だ。かき揚げやきんぴらみたいに細かく刻んで炒めてあったらスープによく合いそうだなぁ、などと閃いた。今度自分でカレーを作るときに試してみようと思う。
好きなネタができた回転寿司
回る寿司も回らない寿司も食べたが、記憶に残っているのは回転寿司の方。
トリトンと和楽、2店の回転寿司に行ってきた。
普段はあまり食べないが、北海道では両店で食べた、気に入ったものが2つある。
一つは茶碗蒸し。
北海道の回転寿司の茶碗蒸しは全体的に甘口く、銀杏の代わりに栗の甘露煮が入っている。そして、どちらもびっくりするほどすぐ出てくる。これが寒い北海道で寿司を食う上ではとてもありがたかった。味噌汁だとちょっと味噌が強すぎて寿司の前に飲むのは抵抗がある。どちらかというとシメでいただきたい。暖かくて甘くてホッとする茶碗蒸しがシュッと出てくるのはたいへん心地よく、続く冷たい寿司が楽しみになってくる。
もう一つはニシンだ。
私は寿司が好きだが、好きなネタは? と言われると即答できるものがなかった。(トロたくと穴子はガキの時分から好きだが、そう答えるのはなんか違う気がしていた)ここにきてようやく好きなネタが定まった気がする。鰤ほど脂が強くなく、鯛やヒラメほど繊細すぎる感じがない。サシが少なめのローストビーフみたいなバランスの良い味だった。
ただこれ北海道じゃないと美味しくないのかもなぁというのは少々残念なところだ。そもそも、かずのこ以外の形で流通しているニシンを探すのが東京では難しい気がする。ニシンの寿司とは、しばらく遠距離恋愛をする形になりそうだ。
深い学びを得た道産チーズ盛り合わせ
札幌に着いた夜、軽く夕飯を取った後にいい感じの看板を見つけて、ふらりと立ち寄ってみた。
・高級品はありません
・カクテルはありません
・ビールはあります
・ワインはいっぱいあります
・チーズは道産しかありません
※一人でやっていますので時間かかる時もあります
道産チーズ。
札幌初めての夜の締めくくりにふさわしい響きである。
結果から言うと店は大当たりだった。私の好きな雰囲気が適度にユルい、いい感じの店だった。惜しむらくはカメラを持っていき忘れて写真がないことか。
マスターはチーズの生産者コミュニティととても仲が良いようで、1聞いたら10教えてくる気さくなチーズオタク、といった感じの人だった。チーズ生産者とコンビを組み、トリュフ入りのゴーダチーズの生産などもやっているそうだった。もちろん食べさせてもらった。あくまでチーズが主役で、しっかり味わうとちょっとトリュフの味がする、と言う繊細なバランスで、とても美味しかった。
いい感じに飲んでしまって詳しいチーズの銘柄などはあまり覚えていないのだが、一つ大変含蓄のある学びを得てきた。
それは、ワインを飲むならチーズは高いやつじゃなくていいかもという事だった。「チーズ」「ワイン」と検索バーに入力すると「マリアージュ」とサジェストが出るほど、一般的にこの二つには「合わせるもの」というイメージがある。少なくとも私にはあった。
確かに、チーズとワインはよくあう。しかし、「いいチーズ」を存分に味わおうとすると、その「いい部分」をワインが持っていってしまうのだ。
わかりやすかったのは、特殊な酵母を使った白カビチーズ(うろ覚え)だ。深めのコクが面白く、私がその日気に入ったチーズだった。
しかし、その「深めのコク」は、ワインとマリアージュさせると消えてしまった。確かにそれでも美味しいのだが、Kiriのクリームチーズでワインを飲んだ時のような味になってしまった。それはそれでもちろん美味しいのだが、なんだか勿体ない感じがした。
マスター曰く「ワインは実は食べ物に合わせるのがとても難しい。あうものももちろんあるが、実は針の穴に糸を通すみたいなもの」との事だった。
「確かに。さっき合わせたら折角のチーズがスーパーで売ってそうな風味になっちゃいました。というかもしかして、日本のスーパーに売ってるチーズって実は相当うまかったりします?」
と、私はちょっとだけ攻めたことを聞いてみた。
するとマスターは嬉しそうに笑って
「そうなんだよ。実は大企業のチーズの企業努力ってすごくて……」と、いわゆる大手メーカーのプロセスチーズも最近のものは十分にウマイという話を理由も交えながら語ってくれた。
ちなみマスターは、「おれ、チーズ自分で作るくらい大好きだけど、うちで飲むときはワインに6Pチーズだよ」とのことだった。
なんとも含蓄のある言葉である。
そして、この経験は最後の晩に「ちょっといい羊の肉」を食べた時に活かされることになった。
繊細な味わい方ができたサフォーク羊(ホゲット)の肩ロース
最後の晩。
この店は、私が札幌でいった店の中では単価が高めの店で、肉の鮮度も非常によかった。
絶品だったのがラムレバー刺しだ。濃厚な旨味がたまらない。臭みは一切なく、薬味が邪魔になるくらいだった(実際、何切か醤油すら付けないで食べた)
最後に注文したのがちょっとお高めの「サフォーク羊(ホゲット)の肩ロース」だった。
横文字が多いが、要するに「ちょっといい羊の、マトンとラムの間くらいの状態」のことである。
これは確かに臭みがなくておいしかったのだが、一口目はこんなに値段がするものかこれ? というのが正直なところだった。
しかし、そこで私は気づいたのだった。いつもの手癖で、赤ワインと「合わせて」食べていたことに。。。
二口目。ワイングラスから手を離し、最後の最後までしっかりと肉を味わってみると、そのおいしさがよくわかった。
後味に通常のラムにはない独特な風味が乗っており、ゆっくりと変化してく。なんとも素敵な味わいを見つけることができた。
これは、初日の道産チーズでの経験がなければ見つけることができない楽しみだったと思う。
とても満足のいく体験だ。
・・・だったのだが、少し虚しいような、悲しいような気もしてしまった。
肉の味の違いはわかる。チーズとワインを合わせることの難しさもわかった。この旅で、「自分の舌はそこそこ信頼できるものがついている」と言う自信も得ることができた。
しかし、その舌に「ちょっと良いもの」をのせた時に得られる快感が「その値段を払うに相応しくならなさそう」ということがわかってきてしまったのだった。
これはごく個人的な問題である。この食べ物は確かに美味い。しかし、その美味さゆえに得られる喜びには、高級食材では限界がありそうなことが見えてきてしまったのだ。
最終的に答えを得た「どんぐり」の惣菜パン
はい。この真面目なんだかそうじゃないんだかの話にはオチ要員がいる。上記のような「虚しさ」を生んだ犯人がい流のだ。
それがこちら。札幌グルメ紀行、一番うまかったのは「どんぐり」のちくわパンを始めるパン。なんと惣菜パンであった。
ちくわパンは、ちくわとツナサラダをロールパンに包んだシンプルな惣菜パンだ。
正直、6泊7日の食べ歩きの締めを飾るような物では全然ないように思える。純粋な味だけで見たらサフォーク羊の方が圧倒的に上だ。しかし、これは一個200円もしないパンだ。値段はサフォーク羊の1/10、しかし満足度はその50%を大きく上回る。正直異様な完成度だと思う。
通常、惣菜パンというと惣菜の味がメインになりがちだ。ここの惣菜パンはそうではない。惣菜自体は比較的薄味で、主役はあくまでロールパン。小麦とバターの味が強烈にしっかりしているのだ。そしてそれが尋常でないほどにうまい。上に乗っている惣菜も、味付けこそ控えめながらも妥協はなく、ジャーマンフランクは食べ応え抜群だった。
6泊7日の日程のうち、朝昼おやつ合わせて4食はここの惣菜パンを買い込んで食べていた。風呂上がりにビールと一緒に食べたこの店のザンギを合わせると計5食である。ここのパンを初めて食べたのが3日目の昼だったので、一度食べてからは1日1食のペースで食べていたことになる。
何がそんなに好きなのだろう、と自分なりに分析してみたところ、理由がわかった。それは、これが人間の工夫が味わえる料理であるからだ。
例えば、どんぐりの惣菜パンは、ロールパンが使われているものに限りラップで包まれて販売されている。これは、おそらく「パンの湿度を保ってしっとりとした食感で食べさせるため」の対策だと思う。パンがベチャベチャにならない絶妙なタイミングでラップをかけ、時間が経ってもしっとりとした食感を楽しめるようになっているのだ。
おわりに
今回の旅行を通して、私は自分の食の好みがよく理解できた。味というのは結局、舌が感じる感覚の一つに過ぎない。そこにはすぐに限界が来る。飯を食っているときに本当に嬉しい瞬間とは、誰かが誰かに「美味い」と思わせたいという工夫を見つけた時だ。そういうものを見つけた時、どうも私はその気持ちをメッセージのように受け取り、そうして心の底から「美味しかった」と思えるようだ。
そう思い直すと、現代とはなんとも私に優しい時代である。
別に、その工夫を施しているのは厨房に佇む気難しい料理人でなくてもいいのである。「お客に美味いと思わせたい」というメッセージは、きっと至るところに溢れている。
札幌のパン屋の厨房はもちろん、コンビニの新商品にだってそれは溢れている。そして、多分ワインをがぶ飲みしても罪悪感のない安いチーズにもあるはずだ。あまり普段気にしないだけで、「美味い」ものというのはそこらに溢れている。
それを本当に楽しむためにはどうしたらいいのだろうか。そう思った私は、5000字近くのこの怪文書をnoteにあげることにした。
なんともまあ、美味しい旅行であった。