知らない公園で 煙草を吸う
わたしはほとんど煙草を吸わない喫煙者だ。
ペースは年に一箱以下。健康診断の問診票では「吸わない」にマルをつける。
田舎から出てきた祖母を都内の歯科に連れて行き、帰りにバーで一杯引っ掛けた。緊急事態宣言明けの今日一日。
なんだか喫煙者のキブンだった。ちょうど去年の今頃買った紫色のアメリカンスピリットが、引出しの奥に眠っていた。普段はお香用に使っているライターと一緒にポケットに入れて、私は自転車に乗った。
前に吸ったときは、家の近くの人気のない公園だった。その前は自宅のベランダ。煙草を吸うのが「くせ」になるのがイヤで、なんとなく同じ場所では吸わないようにしている。なので今日は、ちょっと遠い公園まで出かけることにした。
Googleマップは便利だ。私は自転車に運ばれて、10分後には見知らぬ公園のベンチに座っていた。
かたわらには缶コーヒー。携帯灰皿を持ち合わせない私は、毎回これを灰皿がわりにしている。喫煙者的にはお行儀が悪いのかも知れないが、生涯でまだ五箱目くらいの煙草だ。どうか大目に見てやってほしい。
普段は飲まない甘めの缶コーヒーを半分ほど飲み、私は今日の目的に火をつけた。
開封一年後のアメリカンスピリット。湿気ているのではないかと少し不安だったが、問題なかった。じんわりと先端に火がともり、しゅるりと煙が踊りだす。すこしして、大学の頃に雀荘やゲームセンターで慣れたタバコの香り。あー、煙草すっているなぁ、と、なんの考察にもなっていない。
ニコチンの摂取が目的ではないので、特に深くは吸い込まない。口と鼻であじわい、ふうっ、と吐き出す。「ふかし煙草」などと喫煙者には嫌われるらしいが、「クールスモーキング」などとも言うらしい。そのあたりのことはよく分からないし、別に分からなくてもいいかなぁ、と思っている。
なんというか、「煙草」というのは、ニコチン関係無しにしても人類の好きなものなのではと思う。
ゆっくりと燻る火と煙を眺めながら、ぼんやりと深呼吸。深夜の街中で手軽に行える、最小規模の焚き火だ。見上げる夜空は暗いけど、よく見ると一等星くらいは灯っている。
3本ほど「ふかし」、最後にすこし吸い込み、ちょっとむせて、火の後始末をした。
明日は仕事だ。そろそろ帰ろう。そうだ、近くに、遅くまでやっている銭湯がある。