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小説 ハグ屋の慶次⑩ 救われた葉月


葉月はその時、突然目の前にフラッシュが炊かれたような気がした。顔をあげても目が眩んだように感じて不安だったが、徐々に視界の異常が消えて、普通に見えるようになっていった。
同時に、それまでふわふわしたベールに包まれた現実感が湧かない世界にいたのがスッキリと見えるようになった気がした。

「私に何が起きたんでしょう?なんだかボーっと見えていた世界が、現実の世界に戻った気分です」葉月の口調がしっかりしてきた。
「良かったね。葉月。きっと店長の催眠術が効いたんだよ」
「おいおい。催眠術なんか。。。」
「葉月がボーッとしてるみたいだから、催眠術を掛けて、催眠療法したんだよね?」と菜美が慶次の言葉を遮って、慶次に向かってウインクで合図を送った。
「あ。ああ、そう。軽い催眠療法みたいなの。
それが効いたみたいだね」と慶次も話を合わせた。
葉月は
「精神科の先生に相談しても変わらなかったのに、店長の催眠術で気分が良くなりました」と納得したように言った。

「それは良かった。中学の同級生たちのことも、話しても大丈夫そう?」と菜美が尋ねた。
「ええ。私がイジメっていうかムシされていたのは、中学の時だったから、すごく昔のことのように感じる」
「でも、イジメグループの誰かと電話で話して、中学時代の事を思い出したのよね?」
「そう。連絡が来た時には、連絡をくれた子もパニックになってたし。私自身も中学の時のことを一気に思い出して、フラッシュバックしたみたいになったの」
「それで罪悪感みたいなものを感じてしまったんだね?」と慶次が確かめるように聞いた。
「はい。あの電話を受けた日に、そうなって。。。皆んな、私がちゃんと対応してあげなかったからいけなかったんだって思ったの。そしたら自分が大変なことをしてしまったような気がして。。。」
「辛かっただろうね、葉月」と菜美が葉月の手を握って言った。

「高校に行ってた間は、その子たちの問題を知らされてなかったんだから、本当は滝川さんに責任はなかったんだよ」と慶次が言った。
「でも、私も高校の間は、知らないフリをして逃げていたんだと思います。連絡をくれた子に明日、電話してみます。ちゃんと話してみます」葉月は、慶次の目を見て決意を言葉にした。
「マスター。本当にありがとうございました」と菜美が立ち上がると頭を下げた。
「いや、僕はたいしたことしてないよ」と慶次が困ったような表情になる。

「ねえ、葉月ちゃん。マスターの困った顔って。。。」
「ニコラス・ケイジ!」と二人の声が揃った。
3人は笑いあった。

「マスター。私、葉月ちゃんを駅まで送ってきますね」と菜美が言い、二人は店を出て行った。


二人を見送ったあと、慶次はカウンターの席に座り込んでいた。かなり疲れを感じてはいたが、川上の時ほどではなかった。
慶次は全てが解決したかどうか、自信は無かったが、葉月の目に生気が戻ってきたことは感じていた。
葉月は罪悪感に囚われていて、「自分がいけなかった。自分が目を背けて安全地帯にいたから、イジメもエスカレートしたし、いじめられていたA子が最悪の選択をした」と思い込んでいたのだろう。
その罪悪感が葉月を現実逃避に向かわせたのだろう。原因が、イジメをしていた子たちにあったのに。。。
学校でのイジメのことをニュースで目にすることはあったが、実際の関係者の話しは報道よりも複雑なのだと感じていた。同時に、罪悪感に絡みとられていた葉月の心を解きほぐせて良かったと思う。

慶次はふと自分の手のひらを見た。
この手は特別な何かを持っているのだろうか。
もしそうなら、心理学や精神医学のような理屈や理論を超えたチカラ。魂に直接話しかけるチカラなのかもしれないと思うのだった。



ここまでが第1章です。
お読みいただきありがとうございました。
素人が描いた物語ですので、辻褄が合わなかったり、人物の描写が甘かったりしていることがあると思います。
2章を書きがら、1章にも手を入れてみたいと思います。


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じーちゃん こと大村義人(ペンネーム )
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