策士
悔しい。悔しくてたまらない。
私がとても大切にしているものをヤツが…。
ヤツ?
そうだ。私の姉だ。
どうしても取り戻さなければならない。
姉も普段は大人しい。
だが、今回は違う。
私が取り戻そうとすればするほど、意地になる。大切なものは私の元に帰ってこない。
私達が過ごす部屋には、父がいる。
コイツを利用できないか。
父は私達娘にあまい。
上手く利用できるはずだ。
キュンです!
父を見つめる。
反応はない。
「ミテモアカンデー」
何かよく分からない音を発している。
キュンキュキュンキュンキュンです!
私のくりくりお目目で見つめてみる。
「シラン」
これも知らない音だ。
だが、私は知っている。
父はこの攻撃にめっぽう弱い事を。
キュンキュキュンキュンキュンです!
「ウッサイナー」
何を言ってるか分からないけど、喜んでいるみたいだ。
このかわいいお目目でどうだ。
キュンです!
「ナンヤネンナー、モー」
山が動いた。
姉は父が好きだ。
父が私に関心を示すと、必ず嫉妬で動く。
間違いない。
姉は動く。
「ヨシ、ミユ、アソブゾ」
父が私に向かってきた。
動く!
「父ちゃん私やろがー!」
姉が嫉妬で父に抗議している。
今だ!
「ン?」
「ア…」
「マタヤラレタ…」
「父ちゃんアタチー」
父の落ち込んだエネルギーと姉の欲求エネルギーを感じる。
だが、そんなことはどうでもいい。
大切なものを取り戻した。
大好きな鹿のツノだ。
カジカジして遊ぶんだ。
何度やっても、父と姉はこのやり方に引っかかる。
私の瞳にはそれだけの力がある。