KONTRACT, Concept, What I think as a fashion designer
(2021-22AW 展示会案内に寄せたご挨拶/全文)
日常の中で、あるいはどのような非日常空間であれ、ファッションは常に全ての人の身体と精神に最も深く結び付くインタラクティブアートです。
ランウェイのショーピースや舞台、映像の衣装を経て、私はリアルクローズのデザインを一生の仕事として選びました。フィクションの世界をデザインすることは楽しく、芸術的で有意義な仕事ですが、自身のアイディアを形にする作業の過程で私が最も惹かれたことは「社会」と「生活」、人の足元に現実的に根差した制約でした。
KONTRACTは社会性を逸脱せず、生活と地続きの日常の中で、人の個性と魅力を静かに主張する衣服のデザインを目指します。
トレンドフォーカス、マーケティング、コマーシャライズ。どれも大切なことですが、コレクションの目的は何よりもまず、 私自身が着たいと思うデザインの商品化に帰結します。
リソースとしてのワークウェアにこだわるのは、長い洋服の歴史の中で各種の目的のために洗練されてきた機能的な構造を現代社会に 即したミニマリズムに昇華させるため。ミニマルとは機能 = デザインであること。 ただシンプルやベーシックであることとは必ずしも同じでなく、複雑であっても必要最小限で、無駄がないこと。
2021年現在「日常着に翻訳されたモード」は、既にいたるところに溢れています。2000年台に登場し、その後瞬く間に世界中を席巻したファストファッション。パリで、ミラノで、NY で、 発表されたコレクションをいち早くリサーチ、パターンを分析してすぐに大量生産に落とし込めるよう、ボリューム層の人々に訴求し買ってもらえるよう、より一般的により安価にと、 流れるような展開で剽窃と消費が行われていきます。
もはや堰き止めようもないこの大きな流れに小さなブランドとして太刀打ちするのは難しく、であれば私は、そこからは一線を置きたい。そして地道なやり方で歴史あるユニフォームやワークウェアの構造やパターンと向き合い、新しいデザインと それを生活にフィットさせるためのミニマライズを、自分の手でやっていこうと思いました。
例えばアシンメトリーなデザインであっても着用時の重量感は左右対称で着心地がよいこと、アイディアと工夫で体型やTPO に合わせること、生活に溶け込む自然さ、 その中で洗練とモードをどう表現するか、...等々、独自のルールに沿ってブランドを差異化、卓越化させていくこと。
そして、ジェンダーニュートラルであること。KONTRACTのサイズはSIZE1=レディース、SIZE2=メンズのフリーサイズ、もしくはSIZE0-1=レディース/SIZE2-3=メンズの最大4サイズにグレーディングします。
私は日本人、163cm/34-36号サイズの女性です。サンプルの第一段階では、まず私が着用した際にシルエットがその動きに映え、身体が美しく見える洋服であることを一番に考えます。
クラシカルなメンズのヴィンテージワークウェアを女性の身体が着こなす時のリフォームやパターン操作を軸にデザインを展開。そして次に、それを男性の身体が着用した時のシルエットが新たな洗練を生むようにサイズアップとともに調整します。これはまだ試行錯誤の段階ですが、全ての人の身体と対話するようなサイズ展開が理想です。
更に、サステイナブルであること。
現在はその意識がファッションに拘らず、人が人として生きていくために必修とされる段階であり、第一歩として私も2015年に策定された SDGs 基準に自覚的であることをブランドに課しています。
経済発展の中で搾取構造のもとに肥大化した大量生産システムと、サプライチェーンの複雑さ故、個人や小さな組織が今、改革をしていくにはまだまだ難しい状況があります。だからただ今は、自分のできることを。
企画から納品まで、資源を極力無駄にしない方法を模索し、コンセプトに沿ったデザインと両立させていくこと。水洗い可能で、長い期間何度も着られる服であること。リサイクル素材の積極的な採用。他人を搾取しない労働形態と適正価格の維持。そしてパタンナー、繊維生産者、縫製工場、加工場その他、生産に関わる全ての事業者とその志を共有する。アップサイクルとユニバーサルなデザインを試み、効率化を生産者と共に考え向き合い、服を買う人へのメッセージを共に発しながら長く協業していくこと。
服を生産する我々の誰一人として、服を棄てたい人はいない。環境破壊や人権侵害を今、是正するべきと考えない人はいないと私は信じます。誰もがこの現状に、歯痒い思いを抱えている。その私と同じ小さな人、小さなデザイナー、小さな生産者同士の繋がりの中で生まれ、ネットワークと技術の発展により構築される健全な生産システムに期待します。持続可能かつ全ての人がファッションから排除されず、ファッションによる自己実現が可能な社会を切望します。
今この時代に、私はそれぞれの社会を生きる人と出会い、一人一人の個性と相対しながら生きていきたい。
私は人付き合いは得意ではありません。自意識過剰で、相手の挙動が極端に気になる人見知り。失礼がなかったか、変に思われなかったか、常識の相違、自分が誰にどう思われ何を期待されているのか、知りたいけれど想像もつかない。
私自身が日々考え、悩み、成長し退行し生まれては消える膨大な思考と行動の宇宙。これと同じ体積のものを、人として生まれた地球上の一人一人がもれなく一つずつ抱えていることを思うと眩暈がします。
そもそも人は、さほど私に対しての興味はありません。人にとって一番大切なのはその人自身のこと。自分自身がただ心地よく満たされて、幸せであることだから。
しかし衣服のデザインは、その人の外見と自意識にダイレクトに、その人自身を創る過程に、否応なく介入します。
好むと好まざるに拘らず動かし難いこの事実が、ファッション=濃密なコミュニケーションであり、アート的な現象である所以です。
育った環境も感覚も違う他者とよりよく関わることは難しい。それでも私は人が好きで、人と出会いたい。一人一人の持つ身体の魅力を違った形で引き出したい。私が選んだ素材とデザインに共感され、その人自身の一部としての1着に選ばれたい。自身と通じ合う感性を持つ他者と出会い、共に衣服を作り、それを着る誰かの人生を今よりも少しだけ豊かにしたい。
全てのクリエーションは、出会いから始まります。服とファッションと、それを纏う人を愛し、今を生きる人同士として。あなたにお会いできる日を、楽しみにしています。
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