芦辺拓『大鞠家殺人事件』

 読もう読もうと思って放置していました。去年の本ミス投票より前に読まなかったことを後悔しています。読んでいたら絶対推していたのに。

 舞台は空襲前夜の大阪、かつて化粧品を扱い繁栄した大鞠家の惨劇を描きます。酒樽での溺死や夜中に現れる小鬼……まさに「探偵小説」のガジェットを用いたストーリーテリングが見事です。また、商都の人々を活写する筆力も目を見張るものがありました。

 私はエラリイ・クイーンや青崎有吾の書くような、ロジカルな作品が好きです。それゆえ、ミステリを読むときに必要以上にロジックを求めてしまうきらいがありました。けれど、本作を読んで、「ミステリの面白さってそれだけじゃないよな」と体感できました。頭では分かっていたけれど、実感として味わえたのは久々です。
 ミステリの面白さは人それぞれ違うものを浮かべるかもしれません。本作は、不可解な事象が合理的に説明され、一本の筋となる——そういう面白さが凝縮された物語だと思います。
 ただ、私が一番好きだったのはそれよりもむしろ、探偵小説への視座でした。ネタバレになってしまうので詳しくは話せませんが、生きた大阪の人々を描きつつ、探偵小説の在り方にも侵食していくような、そんな物語です。読み終わったとき、これは推理作家協会賞を獲るはずだ、と思いました。

 ミステリ好きなら間違いなく楽しめる一冊です。是非とも手にとってほしいな、と思います。

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