「テッペン」までの永遠と刹那 高城司覚え書き

こんにちは。

『HiGH&LOW THE WORST』の話をしますね。

高城司の話なんですけど。

彼の生きる世界には、どうしたってついて回る彼自身の根底となる人物がいます。彼の名は花岡楓士雄。司は楓士雄が正しくあるように奔走し、楓士雄はそんな司のことを「自分のことをよくわかってくれている」と評します。

なぜ司がここまで楓士雄に執着したのか、そのきっかけは明かされません。彼のキャラクター性は完全にフィクションな存在でない以上、彼自身の造形の問題ではないのでそこを明確にする必要はないのでしょう。

司は楓士雄の見ていないところで楓士雄の判断が誤ることのないよう情報収集をし、楓士雄が突っ走りそうな時には強く静止することもあります。楓士雄のキャラクターとの対比でもありますが、司のその振る舞いは一種支配的でもあり、今そこにいる楓士雄自身よりも彼の理想から落伍することは許さないという強い意志を感じます。思えば中の人繋がりでプリレジェ の光輝も夢を押し付けるタイプの男ですね。そんな司を的確に表していたのがドカの台詞。

「過去を見るな、過去を!」

そう、司は常に楓士雄にどうあって欲しいかと考えて行動を起こすあまり、強く過去に囚われた思考回路をしているのです。振り返ってZEROでも、屋上での回想を何度も繰り返しながら、司は楓士雄とテッペンを取れなければここにいる意味はないと鬼邪高覇権争いの舞台から降りようとすらしていました。そんな司が再び鬼邪高に舞い戻った理由は楓士雄の居場所である屋上を守るため。過去、日常のメタファーであるその場所のために司は立ち上がります。なんだか負けヒロインみたいな行動してますね。

司にとってのテッペンはあくまで楓士雄と見た約束の果てに。

司には特有の、ふと消えてしまいそうな儚さと一面の砂漠のようなもろさがあります。それは楓士雄によって更新されていく数多の過去だけを抱きしめて楓士雄のそばにいるという彼自身のいびつな性質とそれによる将来性のなさからくるものでしょう。

楓士雄以外に見向きもせず、ただ過去に生きる司には、テッペンの先の約束がないのです。その先、司はまるで時間切れにでもなったように忽然と姿を消してしまいそうで、それ以外に司の行く先がなさそうで、その破滅を受け入れてすらいる司はあまり健全な人物ではない、それだけは確かに言えます。

司と楓士雄がテッペンを目指す時間は物語の中では永遠のようでもあり、しかし普遍的なホモ・サピエンスの寿命から見れば刹那のものでもあります。永遠と刹那は中の人的なテーマの一つでもありますが、ここまで永遠と刹那を生きることの危うさを描き上げたのは司が初めてではないでしょうか。

書いてて思ったんですが、やっぱり負けヒロインすぎませんか司。

日常側の存在、過去の理想への執着、そしてそれらの属性とともに、司を演じる吉野北人の表情が絶妙すぎる。水がとうに枯れた砂漠みたいな表情がかなり司のイメージを強く補強していると思います。普段はそんな感じでみんなの輪の中の楓士雄を俯瞰しているのに、楓士雄が危うい行動をしそうというときにその目はまっすぐ楓士雄を捉え、強い感情を発露させる。

多分楓士雄が雪の中で絶望していたら傘を持って来てくれる。

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