何度でも王子様は救われない
神、悪魔ときて、その物語を生きている人々のあり方の一つとして今回引いてきたのは王子様になります。
ヒトが物語の力によって到達することができる一つの形として、王子様という存在があります。王子様はその物語によって世界を革命することができますが、物語はいつか消えてしまう期間限定の力。それでも譲れないもののために、その身を、人生を焼き尽くしてしまうのが王子様の恐ろしさでもあります。
この恐ろしさは、観測者からの感情です。観測者はそれを知りながら、未だ未だと王子様を消費する矛盾した欲望を抱えています。
王子様の本質は炎です。蠍か悪魔か、王子様のあり方の清純さと裏腹にその魂は渦巻き、乱れ、焦げ付きながら燃え上がる炎です。
王子様の美しい姿に隠れているのは、この世界への限りない怒り。しかし、王子の身体は燃える側から冷え込んでゆき、常に王子を観測する世界によってアップデートされ続けています。それでもその炎を消すまいともがくその姿は、戦士のようでもあります。
王子様のあり方は美少女のそれと酷似していますが、美少女は観測者によるデータベース的、属性的な認知によって美少女としての存在を確立します。そこはキャラクター、悪魔との共通事項になりますね。一方、王子様を定義する文章の構造は主観的であり、夢小説にも受け継がれてきた、文の絶対性によって担保される自称することの不可逆さを利用しています。神が物語から生まれる理論上の存在ならば、王子様は彼ら自身による宣言から生まれる物語のメタファーです。王子様の死も、美少女の死も、異なる物語による反乱であることは明らかですが、その実彼らの成り立ちには男女のそれに非常に似通った差異が存在することがわかります。
また、王子様を求めるのは必ずしも女オタク的要素だけではありません。「名前ちゃん」による観測こそが王子様を補強する一要因であり、「名前ちゃん」のあり方は決して王子様とつながるようなものだけではありません。王子様を見たその日から、あなたは「名前ちゃん」になるのです。その「名前ちゃん」によって強さが決まるという性質から、王子様には絶対的な存在限界が訪れることでしょう。
王子様には常に差し迫った危機があります。物語が崩壊し、世界がシラけてしまう事。その恐怖はこの現代においてまるでアキレウスと亀の終盤のようにぴったりと張り付いています。リアルタイム配信という構造を利用した悪魔にはもともとそういう意図があったのでしょうが、王子様は全ての物語が取るに足らないものになるという圧倒的なシラケと戦っています。そのため、王子様は常にその前身を燃やして王子様を演じるしか生存方法が残されていません。
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