芝公園六角堂跡
西村賢太氏は、芥川賞受賞時の発言など、なんか下品だと思い敬遠していたのですが、急逝なさった時に「歿後弟子」として藤澤清造という不遇な作家に私淑しのめり込み、石川県まで月命日と命日に欠かさずお墓参りを二十六年続けていたことを知りました。2002年には藤澤清造のお墓の隣に自らの生前墓を建てたのだそうです。さらに全集まで刊行し、藤澤清造という作家が陽の目を浴びるよう努めた師匠孝行な弟子でもありました。
「芝公園六角堂跡」を手に取りました。
····で、これが私には大変読みやすく、決して下品ではなく共感する箇所も多く感激してしまったほどです。
作家の分身である北町貫多は、稲垣潤一のコンサートに東京プリンスホテルにやってきて、コンサートを満喫し浮かれた気持ちで帰ろうとした時、この芝公園で私淑した藤澤清造が凍死したことを思い出し、私小説を書く作家として今一度奮起する、、という連作小説になっています。こう書くと、どこがどう面白いのか、と思うのですが、なんか面白くて一気に読んでしまいました。。
まず、稲垣潤一が登場してびっくりしました。西村賢太氏は、若い頃から稲垣潤一のファンなのだそうです!?えっ、やめて私も割合好きなんです。西村氏と同様、人生にあまり音楽は必要ないのですが、稲垣潤一の「セルフ·ポートレート」っていうアルバム。アルバムは、一曲くらい気に食わない曲があるものなのですが、これは全曲好きでエンドレスで聴けるのです。
さらに、どうやら北町貫多と私は性根が似てる。なんか腑に落ちないのですが、北町貫多は乙女チックなのです。。
太宰治のダメっぷりは許せないのですが、西村賢太のダメっぷりはなんか許せてしまえる感じです。境界線がどこなのか、何がどう違うのか言語化できないもどかしさはあります。。
ただ実際、西村賢太氏が近くにいたら、それは大変だろうと思います。駄目駄目で生きていくことを信条としているから、小説を執筆すること以外のことでは、他人に迷惑かけても全く反省はしないかと思います。。
芥川受賞作「苦役列車」もピュアな感性を感じました。。中卒の日雇い労働者は、岩波文庫を片手に安酒を飲んでいました。。なんかロマンチストでスタイリストではありませんか。