二十世紀に布団を掛けるべきか

りんごはアレルギー、キウイも桃もそう、さくらんぼもそう、バナナは食感がイマイチ好きじゃなくて、ぶどうは皮の感覚が……、と果物難民の私にとって、唯一手放しで美味しく食べられるのが梨とみかんである。

今日はセブンで梨を買った。秋が旬。うきうきで食べた。確かに美味しいんだけど、裏を見るとビタミンCだの何だの、梨だけの成分ではない。当たり前だけど。食感もほにゃほにゃ。違うんだ。私が食べたい梨は、これじゃない。

梨が食べたい。無性に、噛むとじゅわっと果汁が滴って、歯触りがしゃっきりしていて、甘過ぎず、酸っぱ過ぎない、そんな梨が食べたい。
居てもたってもいられずジャージのままで向かった、果物屋の王様千疋屋。表参道のDIORに入った時と同じ場違い感を覚えた。そんなちんちくりんの私にも、店員さんが「何かお探しですか」と声を掛けてくれる。「あの、梨が大好きで、梨が食べたいんです。美味しくて、ほにゃっとしてなくて、じゅるっとしてるやつ。でも甘くなくて、酸っぱくないやつ」と最悪の語彙で返答する。「そうしたらこれですね」と一発で提示された、二十世紀。東京で買うと、お値段は1600円。幾らでも良かった。私は今DIORよりも梨が欲しい。「いつ食べますか」と聞かれ、「今日か明日食べます」と答えた。丁寧に包まれた薄緑の梨を、店員さんが一つずつ確かめる。「これが良いと思います」へー。全部同じに見えるけど、違うんだな。梨は追熟しないらしい。「お箱に入れてきます」と裏へ向かう店員さんの背中を見つめ、決済をして待った。「梨のマニュアル付けときました」え、梨にマニュアル?西野カナのトリセツみたいなこと?血統書?すげえ。

お箱に包まれた梨様は、自分よりも価値高く思える。野菜室が無い一人暮らし用の冷蔵庫に寝かせるには大変申し訳無く思えてきた。今日は梨様にベッドで寝て頂き、私は床に寝るべきじゃないんだろうか。お布団を掛けた方が良いんじゃないか。生まれてこの方小さい冷蔵庫になど入った事の無いであろう梨様。帰って来てから「お箱」と一緒に眠って頂いている。明日の朝食べる。楽しみ過ぎ。

いいなと思ったら応援しよう!