なまえの話
そもそも下の名前を呼び捨てで呼ばれることに
慣れていないからなのか、とてもくすぐったい。
どうしようか、ここでの私の名前。
仮に山田花子(やまだ はなこ)とでもしよう。
私の名前は花子。
うん、いいと思う。
親からは「はーちゃん」と呼ばれ、
それを聞いてきた幼馴染も「はーちゃん」と呼ぶ。
きっと、小学校に入学するまでは、
「はーちゃん」はたまた「はなこちゃん」
と呼ばれていた。
小学生から呼び方の通常が
名前から苗字へと一気に変わる。
「やまださん」「やまだ」
仲良くなった子からは「はーちゃん」
中学校。
通っていた小学校と隣の小学校の生徒が通う。
呼び方はあまり変わらなかった。
高校。
人見知りのくせに、人見知りだからこそ、
私のことを誰も知らない世界へ飛び込みたがる私は
小中学校の同級生が一人もいないところへ入学。
友達なんかできるわけないなこれ、
わりと寂しいかも、失敗した。3年持つかなこれ。
そう思ってた矢先、友達ができる。
友達って作るものじゃないな、できるものだな
としみじみ。
ここで初めて、対等な立場で、
下の名前を呼び捨てにされることになる。
声に出して、呼ばれることに違和感はなかった。
別に、そこまで。
高校生になって、スマホを買ってもらって。
友達と連絡先を交換する。
友達ができたとはいえ、
誰とでも仲良く!ができなかった私は
狭い、狭い付き合いだった。
その狭い付き合いのなかで、
「はなこ」呼びが主流。
音として、呼ばれることに違和感はなかった。
文字。文字として、呼ばれることが苦痛だった。
違和感だった。よく分からない、不快感に襲われた。
理由は分からない、分からないからそのまました。
専門学校。
手に職をつけるための場所感が強く、
友達という関係を築く機会も、築こうという気持ちも
あまりなかった。
けど、帰り道で同じになったり、
科が違って関わりはなかったけど
高校が同じ子だったりで、よく話す子たちはいた。
その子たちには誕生日にお祝いもしてもらった。
「やまださん」「はなちゃん」
そんな呼び方だったと思う。
社会人。
当たり前だけど、苗字のオンパレード。
「やまださん」「やまだちゃん」「やまちゃん」
「やまだ」「やま」etc
本来の苗字は、
「やまだ」よりも呼びやすいというか
語呂がいいというか。
それもあってなのか、
下の名前で呼ばれることから遠のいた。
そして、現在。
世の中にはいろんなSNSがある。
趣味が似ていて繋がったり、
何故か私の小規模なアカウントを
見つけ出す全く知らないけど同郷の人。
まぁ歳が近ければいっか。
というネットリテラシーの欠片もない私は
話しかけられれば返信する、という形をとる。
別に、それ以下でも以上でもない。
きっと先に続く“会う”という選択肢が私にはないから
文章だけのお付き合いだ。
そもそも、知らない人間のSNSに
フォローリクエストを送るタイプは
決まってコミュニケーション能力が長けている。
あっという間に「はなこ」と呼ばれるようになった。
そう、あの違和感の塊である
文字での「はなこ」呼び。
何がこんな不快なんだろう。
分からない、分からないけど
「はなこ」という3文字で完成する人間に
私はまだ、なれていないからなのかもしれない。
未完成な奴に、
名前を正しく呼ばれる資格なぞないと。
どこか、深奥で、そう感じているのかもしれない。
そんな話。