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【BL小説】人の恋路を邪魔するやつは

 中山有馬(なかやまありま)はムシャクシャしていた。つい数時間前にバイトをクビになった。その数時間前には合コンで知り合ったちょっと可愛い女の子にこてんぱにフラれた。さらに数時間には姉に取っておいたプリンを食われた。

 そして今、有馬は雨上がりの道をパンクした自転車を引きずって歩いている。


 ――呪われている。


 そもそもこのふざけた名前だ。競馬好きの父親が付けた名前を有馬は嫌いだった。まず誰も『ありま』なんて読んでくれないし、調べてみたら『有馬』はアリマナントカという人の名字だった。

 抗議したら「有馬記念は馬券売上が世界一のすごいレースなんだ」とかわけのわからないことを自慢げに言われた。そんなの余計怨念的なものが籠っていそうじゃないか。負けたおっさん達の。

 姉の『さつき』の方がまだマシだ。少なくとも読み違うことは絶対にない。

 タイヤがぶよぶよになった自転車は普段の五割り増しくらいに重く、自転車屋までの道のりが異様に長く感じた。そのぶんイライラがさらに募る。

 後ろから来た軽トラックが勢いよく水溜まりに突っ込んだ。避ける間もなく泥混じりの飛沫を浴びる。

「〜〜っ、ぬあーっっ!!」

 有馬はハンドルを地面にたたき付けた。下校途中の小学生の一団が遠巻きに好奇の目を向けてひそひそ言い合っている。有馬は一つ深呼吸した。


 ――絶対、呪われている。


 言葉には力があるという。名前もまた然り。変な名前のおかげで今までろくなことがなかった。

 いちいち読み方を訂正しなくてはいけないし、名前だけ武士っぽいとかネタにされるし。やっと覚えてもらえたと思ったら「ありまくんて下の名前何だっけ?」などと言われるし。それも好きだった女の子にだ。そのせいでちょっとグレた。


 ――もう改名するしかない。でもその前に御祓いか?


 奇しくもそこは神社の入口だった。小さな神社に御祓いを出来る人間がいるのか疑問だったが、取り敢えずお参りがてら様子見て来ようか。有馬は自転車を起こし鍵を掛け両脇に草木の生い茂る細い石段を上った。

 石段を上り切ると小さな鳥居があり石畳の先にこれまた小さな本殿があった。境内は雑木林になっていて他に建物は見当たらない。どうも常駐の神主が居る神社ではない様子だ。

 締切った扉の格子から中を覗く。内側に賽銭箱が置かれているのは盗難防止のためだろうか。奥は暗くてよく見えない。賽銭を投げ手を合わせる。奮発して英世を投入した。


 ――呪いがとけますように。何かいいことありますように。具体的には黒髪の可愛い彼女が欲しいです。


 千円も払ったのだから神様も願いを叶えてくれるに違いない。有馬はよくわからない達成感に浸りながら参道を振り向いた。


 ガサッ


 本殿の裏手で何かの気配がした。耳を澄ますとどうやら獣の息遣いのようなものが聞こえてくる。有馬は足音を忍ばせて建物の脇に回り後ろを覗いてみた。

「…………」

 有馬は絶句した。そこには二頭のふさふさした犬がいた。一方は黒でもう一方は白黒のぶちだ。その黒がぶちの後ろからのしかかるようにしがみつき腰を動かしている。

 有馬は自分が真剣にお参りしていた裏でことに及んでいる犬達に対し言いようのない腹立ちを覚えた。祈りを汚された屈辱と、よろしくやっている犬への嫉妬もある。

 有馬はおもむろに近くにあった蛇口のホースを掴み、取り込み中の犬に向かって放水した。突然霧状の水を浴びせられた犬達は驚き慌てたがそれでも離れようとしない。

「なんとあさましいやつらだ!神聖な祈りの場を汚す不届きものめ!こうしてくれる!ぎゃはははっ!ざまあ!」

 果敢にも犬達は最後までことをなし終えそそくさとどこかへ逃げて行った。一抹の虚しさを感じないでもないが、自分は間違っていないと言い聞かせ有馬は神社を後にした。






深夜、有馬は息苦しさを感じて目を醒ました。何か嫌な夢を見た気がする。喉が渇いている。水を飲みに行こうと起き上がって部屋のドアを開け有馬は硬直した。

 あるはずの廊下がない。かわりに板張りの広い部屋がある。中央に分厚い畳と高級そうな布団が敷かれそれを挟むように置かれた燭台の火が揺れている。なんとも時代錯誤な光景だ。

 後ろを振り返るが自分の部屋もドアもいつの間にか消えていた。

「…どこでもドア?」

 のわけないからきっと夢だ。夢から醒めた夢を見ているんだな。もう一度寝れば目が醒めるだろうか。ちょうどよく布団もある。

 有馬は真綿がたっぷり入ったふかふかの布団に潜り込んだ。夢とは思えないふんわり感だ。実際体験したことのない感覚を作り出す人間の脳みそは不思議だ。そういえば空なんて飛んだことないのに夢の中ではなぜか普通に飛べたりする。

「だがこれは夢ではないぞ」

「うわっ!」

 突然の声に有馬は飛び起きた。いつの間にか傍らに白髪の異様な風体の男が立っていた。気配をまったく感じなかった。

「自ら進んで仕置を受けに来るとはなかなか殊勝なやつじゃのおぬし」

「は?仕置って何だよ。つーかあんた誰?」

 髪は白いが年寄りには見えない。長い髪をポニーテールのように結び時代劇の偉い人が着るような服を着ている。しゃべり方まで時代劇っぽい。

「なんだおぬし、反省して仕置を待っていたのではないのか」

「だから仕置って何だよ。初対面のやつにいきなりお仕置とか言われてもわけわかんねーし」

 男が切れ長の目を細くした。

「ほう、おぬしはまったく心当たりがないと」

「そうだよ」

「では教えてやろう。おぬし昼間わしの社に来たであろう。その時何をしたか覚えておらぬか」

「何って、賽銭上げてお参りしたけど…あんたなんで俺が神社に行ったこと知ってんの?」

 疑問を口にしたが考えてみれば自分の夢の登場人物は自分の一部なのだから知っていても不思議でもなんでもない。

「もう一度言うが夢ではないぞ」

 心を読まれているのも自分の一部だから、ということで説明は付く。

「だから…まあよい。おぬしが参拝したかどうかなど知らぬ。その他に何かしたであろう。覚えておらんとは言わせぬぞ」

「他って、犬を追っ払ったことか?」

「そうじゃ。酷いことをしおって」

「あんたあの犬の飼い主か?ちゃんと繋いどけよ。保健所に通報するぞ。あいつらがあんな場所で盛ってるから追っ払ったんだ。罰当たりだろうが」

「まあわしも自分の庭で子作りされて嬉しいわけではないが、あのもの達に罪はない。それよりおぬしのしたことのほうが目に余るぞ。抵抗出来ぬものを一方的に虐げるなど非道の極みじゃ」

 そう言われると反論しにくい。八つ当たりをした自覚はある。だがそれより男のもの言いが気になった。

「さっきからわしの社とか自分の庭とか、あんたもしかして…」

 あの神社の所有者なのか。コスプレ好きの。

「わしはあの社に奉られておるものぞ。こすぷれではない」

 男――神様はフンと鼻を鳴した。

「知っておるか。ひとの恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死んでも仕方ないらしいぞ」

 その口元が悪魔的な笑みを浮かべた。ぞわりと肌が泡立ち身の危険を告げる。


 ――逃げなければ、殺られる。


「おっと、わしから逃げられると思うてか」

 布団を撥ね上げ逃がれようとした腕を強く掴まれる。そのまま引き倒され俯せに組み伏せられた。背中を膝で押さえつけられ完全に動きを封じられてしまう。

「…苦しい、はなせっ」

「わしが神と知ったうえでその態度か。気に入ったぞ。安心せい、殺しはせぬ。ちょっと脅かしただけじゃ。だが暴れるとなお痛い思いをするぞ。おとなしく仕置を受けるがいい」

 言うが早いか有馬のハーフパンツが下着ごと引きずり下ろされた。

「ぎゃーーっっ!!何しやがる変態!!」

「変態ではない。神じゃ」

 不機嫌な声で訂正した男は有馬の上半身を片手で押さえ付けたまま尻を持ち上げた。尻叩きでもされるのか、と衝撃に耐える覚悟を決める。

 と、尻の間に何か冷たいものが当たった。ビクリと身体が震える。

「冷たかったか?だが濡らしてやるだけありがたく思え。仕置とはいえ怪我をさせては後がかわいそうじゃからな」

 濡らす?怪我?後?嫌な予感しかしない。その予感を裏切らず中に何かが侵入してきた。

「うあっ…っ…」

 ゆっくり入って来た何かはうねうねと中をまさぐる。

「…やめろっ、いやだ」

 千円も払ったのにこの仕打ちは何だ。理不尽だ。気持ち悪さと屈辱感で泣きたくなる。

「屈辱か。だがあのもの達がおぬしから受けた辱めはこんなものではないぞ」

 指が引き抜かれ替わりにもっとはるかに質量のあるものが捩じ込まれた。

「痛いっ、やめ、抜いて…」

「それは出来ぬ。一度入れたら終わるまで抜けんようになっておる。犬のものはそういう造りになっておるのじゃ。知らんかったか」

「っ、そんな…」

 ではあの犬達は逃げたくても逃げられなかったのか。途中で止めなかったわけではなく、止めることが出来なかったのか。

 有馬は自分の行いのえげつなさに気付き、それを正義とすら思った自分を恥じた。だが今さら気付いたところで遅い。罰を受けるのは当然の報いだ。

「…反省したか?」

「ごめ、なさい…」

 顔を押し付けた布団が涙で濡れた。

「分かればよい。いい子だ」

 先程とは一変した優しい声が言った。

「だが今言った通り終わるまで抜いてはやれん。最後まで付き合ってもらうぞ」

「ぬ、抜けないって、あんたも、犬なのか?」

 見た目は人間の男なのに持ち物は犬のものなのか。

「まあそんなところじゃ。俯せのままでは苦しかろう。どれ」

 繋がったまま器用に片足を持ち上げ身体を反転させられた。向かい合う格好になり有馬は慌てて手で前を隠す。

「わわっ、見るな!」

 相手の姿が見えるとどんな状態なのかを思い知らされて猛烈に恥かしい。男はいつの間にか袴を脱いでいたが着物の裾を割っただけの状態がかえっていやらしい。

「隠していてはよくしてやれぬぞ。どうせやらねばならぬなら少しでも心地よいほうがよかろう」

 男は有馬の手をやんわりと退かしそこを緩く握り込んだ。温かい手で包み込まれ意思に反して身体が熱くなる。

「…っ、灯、消して」

 どうしても最後までやる必要があるのなら仕方ない。自分の蒔いた種とはいえ男に掘られるなんて。唯一の慰めは相手が人間離れした、というか人間ではないのだが、美人だということか。

「なんじゃ、おぬしわしの容姿が好みなのか。ならば明るいほうが良く見えてよかろう」

「俺の好みは人間の女だ!かすってもいねーよ!つーか心を読むなっ!」

「そうか。こうして見るとおぬしの容姿はなかなかわしの好みに合うておるぞ。 ただその毛唐のようなあかがね色の髪はいただけんな」

 男はそう言うと有馬の前髪を一房摘みあげた。するとその先から赤銅色の髪がみるみる黒髪に戻っていく。

「これで完璧じゃ」

「な、何しやがるんだ、染めたばっかりなのに!」

「好みでないほうが時間がかかるぞ。そのほうがよかったか?」

「〜〜っ!くそっ!さっさとしろ!」

 有馬はヤケになって目を閉じた。瞼の裏が一段暗くなる。何だかんだ言いながら灯を小さくしてくれたらしい。

「おぬし、名は何と申す?」

 ゆるゆると手を動かしながら聞いてくる。

「…有馬」

「ありまか。良い名じゃ」

 目を開けると微笑を浮かべ自分を見つめる男と目が合った。変な名前と言われることはあっても良い名だなどと言われたのは初めてだった。気恥ずかしくなってすぐ視線を背ける。

「…あんたは?名前、あるんだろ」

「わしが犬として生まれた時の名は四郎丸しろうまるじゃ。四番目に生まれたわけではないぞ。一匹だけ白かったから白う丸じゃ」

 四郎丸は少し口を尖らせた。そのしぐさが神様らしくなくて噴出してしまう。

「む、笑う余裕が出て来たか。もう動いても大事なさそうじゃな」

 言われてみれば慣れてきたのか痛みや不快感が薄れてきている。四郎丸が身動ぎすると腰の底に鈍い快感が広がった。

「…っ、」

「痛いか?」

 ぶんぶんと首を横に振る。四郎丸はゆっくりと腰を使いながら有馬の前を抜く。むしろもどかしいくらいだ。

「…俺は平気だから、早く、終わらせろ」

 だんだん変な感じになってくる。仕方なくのはずなのに四郎丸と繋がっているのを心地よく感じてしまう。

「おぬし男は初めてか。心配するな。慣れれば女人より良いらしいぞ。わしの主人もしょっちゅう念者と…」

「俺をおかしな世界に導くな!いいから、もう、めちゃめちゃにしろよっ!」

 ねんじゃが何なのか知らないがどうせろくな意味ではない。

 痛いだけのほうがマシだ。気持ちよくなんてなってしまったら「仕方なく」という構図が崩れてしまう。そんなの絶対認めたくない。

「ならば遠慮なく」

「うあっ…、や…っ」

 即座に自分の言葉を後悔した。既に手遅れだったらしい。下から突き上げられる度に波のように快感が襲う。

「…有馬、顔を見せい」

 無意識に顔を隠していた手を退けられる。熱っぽい視線を向けてくるその精悍な顔は、苦痛と恍惚を滲ませている。

「有馬、名を、呼んでくれんか?」

「…しろ…、まる」

 四郎丸が嬉しそうに黒い目を細めた。

「よいものだな、名を呼ばれるのは……ああ…有馬、わしはもう……出すぞ」

「えっ!?ちょ、待って、中で?」

「当たり前じゃ。終わらねば抜けぬと、言ったであろう」

 そこまで思い至らなかった。有馬は青くなった。

「…うう…最悪だ…」

「その言い種は傷つくぞ。だがせめておぬしも一緒に」

「あっ…」

 揺さぶられながら前を強く抜き上げられる。再び快楽の波に飲まれ達したい欲求が高まる。もうどうにでもなれ。

「ありま…」

 低く掠れた声が鼓膜をくすぐる。

「…しろう…まる…、もう…」

「いくぞ、いいな…?」

「……っ!!」

 一際強い一突きの後、熱いものが広がった。目の前が真っ白になり有馬はそのまま意識を失った。






 何か温かいものに包まれていた気がする。ふわふわとした感覚とお日様の匂い。

 有馬はベッドの上で目を覚ました。閉め忘れたカーテンの間から朝日が差し込んでいる。

「…夢か。…夢、だよな…?」

 なんだかものすごいトラウマになりそうな夢を見た。布団を捲って確認するが服はちゃんと着ている。髪の毛は…黒くない。染めた時と同じ赤茶色だ。トイレに行っても特に異状はなかった。

 夢。きっと昨日の神社でのことを無意識下の良心が咎めてあんな夢を見せたに違いない。恐ろしい夢だった…色んな意味で。

 遅い朝食を食べた後ぶらぶらと家を出た。パンクの修理を頼んでいた自転車を取りに行く。チューブ自体が相当劣化していたため交換になった。やっぱりついてない。

 だが気分はスッキリしていた。内容はともかくあの夢で発散出来たのかもしれない。下着も汚さず。もしかしてすごい境地じゃないのか。

 帰りにスーパーでジャーキーとほねっこを買い神社に向かった。風がさわさわと木々の葉を揺らす。実に爽やかな良い天気だ。

 石段の下の石柱には『白犬神社』と刻まれていた。よく通り掛かる場所だが初めて知った。

 夢の中で神を名乗った男は自分は白い犬だったと言っていなかったか。偶然の一致なのか、それとも意識せずに見た神社の名前を脳が記憶していたのかもしれない。

 本殿にほねっこをお供えして手を合わせる。昨日の犬は見当たらなかったが、お詫びのつもりで袋から出したジャーキーを裏手の軒下に置いた。

「わしもそっちの肉がいいぞ」

「ギャーッッ!!」

「なんじゃひとを化け物みたいに」

 しゃがんでいた有馬のすぐ後ろに四郎丸が立っていた。手に持ったほねっこの端を囓っている。

「なんでいるんだ…っ!はっ、夢か!?夢だ…!!」

 頬を抓ってみる。痛い。でも昨日の夢も痛かった。痛覚など判断基準にはならない。

「ほう、夢と紛うほど嬉しいか。それはよかった。わしも昨夜からおぬしが忘れられのうてな、おぬしの気持ちを確かめたいと思うておったところじゃ。おぬしもわしを好いてくれておったか。嬉しいぞ」

「なんでそうなるんだよ!半端にひとの心を読むんじゃねぇ!」

「これからは毎晩可愛がってやるからわしの分の肉を用意して待っておれ」

「うわーっ!詐欺だ!賽銭返せ!」

 恋人が欲しいとは頼んだがこんなのおかしい。絶対おかしい。

「賽銭?そういえば昨夜も参拝したとか申しておったが、わしは何も聞いておらんぞ」

「あんたここの神様じゃないのか!?知らないわけあるか!」

 そうでなければ神だというのが騙りなのか。

「…いくら入れたのじゃ?」

「千円も入れただろ!」

「紙幣でか?」

「そうだよ。それがなに」

 四郎丸は生温い目で有馬を見下ろした。

「紙幣はいかん。残念じゃったな」

「は?」

「おぬしは何も知らんのだな。よいか、賽銭というのはこれから参拝いたしますという合図の意味があるのじゃ。音のせぬ紙幣をいくら入れられても気が付かぬぞ。神とて常に参拝者が来るのを見張っているわけではないからな」

「ええっ!?じゃあ俺の千円は…!?」

 奮発して紙幣を投入したことが完全に無駄だということか。有馬は四郎丸に掴み掛かった。

「返せっ!俺の英世を返せっ!つーか今あんた俺が千円入れたの知っただろ!願いを叶えろ!」

「嫌じゃ」

「なにをぅっ…!?」

 わめき声は口付けで遮られた。大きな袖の中に身体ごとすっぽりと捕らえられてしまう。

「おぬしに言わねばならぬことがある」

「…なんだよ」

 真剣なまなざしに不覚にもドキリとしてしまう。

「実はな、昨夜言ったことは嘘じゃ」

「は?どれのこと?」

 いろいろ変なことを言われた気はするが。

「あれじゃ、終わるまで抜けないという。今のわしのものは人間のそれと同じじゃ。どのみち後でバレるだろうから今のうちに謝っておく」

「嘘……?」

 じゃあ昨日の我慢はいったい何だったんだ?あんなに痛い思いをして、恥かしい姿をさらして。

「最初はおぬしが反省したら止めるつもりだったんじゃが、おぬしがあまりに可愛かったものでつい、な。すまぬ」

「…す、すまんで済むかっ!!色情魔!ペテン師!責任取れ!」

「色情魔でもぺてん師でもない、神じゃ。だが責任は取ってやろう。おぬしを惑わす女人がおぬしに近付かぬようにしてやろうぞ」

「それ呪いじゃねーか!!」

 もうだめだ。人生終わった。がっくりとうなだれる有馬を四郎丸はぎゅうと抱き締めた。

「愛しておるぞ、有馬」

「……心は読むくせに空気は読まない主義か。上等だこのやろう」

 着物の衿から微かにお日様の匂いがする。どこからか現れたむくむくの犬が二頭、尻尾をふりふり足元のジャーキーに囓りついた。

 次に髪を染める時は黒に戻そうか。そんなことを考えながら有馬はおずおずと四郎丸の背中に手を回した。

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