1人旅。戦闘力ゼロの暗闇を巡ってお坊さんに叱られる。
若い頃なので、と一応言い訳しておくが、私は一人旅が好きだった。
というのも、当時ゲーム制作の仕事だったため、忙しい時は休日返上で働き、リリースされると溜まった休暇を消化するということが可能だったためだ。
2〜3週間は休みが貰えるので、自分の予算の許す限りで旅行ができた。
とはいえ、社会人になってからのそんな休みに付き合ってくれる友達はいないわけだ。会社の先輩といく気はしないとなると、必然と1人で行動することになる。
もう20年近く昔の話になるが、香川県に行った時のことだ。
私の父方がもともと香川出身の人間だったこともあり、一度行ってみようと思い立ったのだ。
いくつか名所とガイドブックにあるところに立ち寄った。
その中の善通寺の戒壇めぐりが思い出深い。
総本山善通寺
東京住みの人であれば、長野の善光寺の方が馴染みがあるかもしれないが、香川県の善通寺にも戒壇めぐりというものがあり、真っ暗な地下通路の中を壁をたどりながら出口まで歩くというものなのだが、御仏の胎内を通り生まれ変わるというような意味があるらしい。
平日のシーズンオフにふらり現れた半パンリュックサックの旅人に、お坊さんは丁寧に教えてくれた。
どうもとにかく、ありがたいものなのだ。
私はもちろん体験することにした。いざ!生まれ変わりの旅へ!
しかしだ。
なんせ照明が無い上に壁も床も黒く塗りつぶされているので全くの暗闇である。経験したことのない暗闇に足を踏み入れてしまった。そしてまあまあ距離も長いぞ。
自分の呼吸しか聞こえない。ここでパニック起こして過呼吸でぶったおれても誰も助けない。あるいは悪い奴が身を忍ばせていても気づかないだろう。
雑念だらけで疑り深い私は、途中から心拍数バクバクになり、半ば駆け足で戒壇巡りを終えた。
お坊さんはにこやかに近寄り
「どうでした?」
と聞いてきた。
「いやあ、怖かったです!(アハー)」
まるで肝試しの出口に辿り着いてホッとしたごとく答えた私を見て、お坊さんはみるみる怒り出した。
「怖いことない!御仏の体の中に包まれるのだから(的なことを言うてはった)
もう一度行ってらっしゃい!」
と再度チャレンジする羽目になった。首根っこ掴まれて穴に放り込まれる猫の如く、である。(無料)
2回目はもうちょっと気が楽であり、あーハイハイもうちょっと行くとね、という気持ちで歩いて出てこれた。
出口で待ち受けるお坊さん、笑顔で
「どうでした」
こっちも学習済みである。
「はい、アハ、なんかよかったですわー」
捕まってはなるものか、スタコラとその場を去ったのであった。
こんなことも、一人旅ならではだと思う。
これがカップル2人旅や、家族旅だったら、さしもの強心臓お坊さんでも、カットインしてやり直しを命じたりしないであろう。
いや、もしかして、あのお寺の定番のやりとりなのだろうか?
「私もやり直しさせられたよ」って方いたら、おせーて。
ちなみに、香川は他にも色々謎な出来事あって面白い土地でしたよ。
また機会があったら行きたいです。
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