湯宿 さか本
ずっと前から行きたかった石川県は珠洲市にある湯宿 さか本。ここは「至らない尽くさない宿」として独自のホスピタリティ(ホスピタリティとは本人は思っていないと思うけど)がある。それは宿のある場所も然り、一つの思想が体現されている場所でもあり、訪れた人はその魅力に引き込まれてファンになる人も多い。(一緒に宿泊していた方も神奈川から8時間かけてここまで来ており、年に3回泊まりに来るらしい・・)
こもるでも宿も料理もホスピタリティも場所も全てが一つの線で繋がるような場所を目指しているので、さか本は参考になることが多く、全てに感動をしてしまった。纏っている空気感に触れた時に、今の自分では作れないなと思ってしまった。
能登の最端、山中にある旅館
宿についたのは夕方。金沢方面から能登街道を車で2時間弱程走らせて能登の先端まで。中々不便な場所にあります。簡単に来ることはできないのですが、その日はぼくらを入れて関東方面から3組の宿泊でした。お一組は年に3回、神奈川から来るまで8時間かけて来ているとのこと。
『色んな旅館・ホテルに宿泊をしたけど、私達に合っていたホテルはここだった。好きな人は好き、苦手な人も多いと思うよ。さか本さんは、泊まれば泊まるほど好きになる。』と料理を食べながら会話したのを覚えている。
実際にぼくも滅茶苦茶好きになったし、毎年来たいと思った。四季を通じて知りたいと思った旅館というのは、今のところはさか本だけなのかも。
至らない尽くさない宿
これは坂本のホスピタリティのポリシーであり、従来のホテルのかゆい所までに手が届くようなホスピタリティでは無い。湯宿さか本に到着し、恐る恐るドアを開けると静寂なエントランス。誰もいない。勿論誰も来ない。
そーっと小さい声で「ごめんください...」と言いながら中へ入っていく。外にむき出しな廊下は足が凍るように寒く、これまた恐る恐る目の前にあるドアを開けると、囲炉裏を構えた天井吹き抜けの広い部屋が出迎えてくれました。
外の極寒廊下とは違い、この部屋は大きな暖炉が部屋全体を温めてくれていた。温けえ。すると、スタッフがやってきて「香田様ですか?お部屋は階段上がってすぐです。」とだけ、言い伝えてまた中に入っていってしまった。
エントラスで出迎えてもらって、部屋にご案内をしてもらって、旅館の説明だけでなくその土地の歴史等もたっぷり聞いて....というホスピタリティを受けてきたので、一言で終わるとは思っていなかった。
ああ、そうか、今までが過度に丁寧におもてなしを受けていたんだなと再認識した。
7畳の部屋に布団が2つのみ
7畳程度の小さな部屋に布団が2枚。布団は地元石川県の老舗であるISHITAYAさん。まるで雪のような毛布がかけられた布団は気持ち良かった。初日は雨が降っていたけど、大きな窓から入る光が陰影をつくり、独特の空気感をつくっていた。
部屋の中には鏡台と小さな机。後は竹籠のゴミ入れと行灯が一つ。電波も少々繋がりずらいこの場所ではやることも無く、風景を眺めていれば時間が過ぎる。
建物は古くもリノベーションをしてあるので、綺麗に整えられている。
地元輪島塗でつくられたお風呂
写真が真っ黒で何も分からないんですが・・能登の輪島塗でつくられたお風呂。温泉では無いと書いていたんですが、無味無臭だけど少しまったり?している。檜の風呂蓋がまた温泉に浸かっているような雰囲気をつくっていた。
本当なら奥に竹林が見えるはずだけど、写真が悪かったか、何も見えず。
お風呂の後には竹林を見ながら、椅子に座り、贅沢な時間を過ごす。
旬な素朴な郷土料理
大きなテーブルに3組の宿泊客が揃ってみんなでご飯を食べる。別れていないテーブルはお互いの距離も近く、ついつい横の人とも話をした。
始めはフランス料理で修行をし、次に精進料理を関西で学び、鎌倉の辰巳芳子さんの元で料理を学んださか本のご飯は、和食をベースに季節の旬を浸かった素朴にも贅沢なご飯を提供してくれる。料理は本当に美味しかった。
母屋とはまた違う離れの存在
母屋から徒歩3分程度の場所に離れがある。離れは古民家ではなく新築の小屋。離れの中では、コーヒーを淹れて椅子に座り、一息ついた。朝日は美しく、鳥のさえずりが聞こえてくる。なんとも贅沢な時間だなあと思いながら、ゆっくりと過ごした。
ホテルがハリボテになる瞬間
様々なホテル・旅館に宿泊をしてきたが、ここまで洗練された空間をご飯を、環境を提供できる場所は日本に少ない。週に一度ホテルに宿泊しては「この建築かっこいいなあ!」とか「広い部屋は気持ち良いなあ」とか思っていて、それはそれで学ぶところも多かったが、さか本は点の話ではなく、ホスピタリティの細部に至るまで、研ぎ澄まされ、それが一つの線で繋がっている。
「これはホテル・旅館をつくっていないな」と迄思った。さか本からきっと人生を学ぶ人も多いと思う。そして表面で繕った考えや思想なんてものはすぐにバレるし、「これは歴史的に有名な作家がつくった良いものだ!」「地球に良くない!サステイナブルだ!」なんて声だかに言ったところで、本気で思っていないのであれば宿泊者の心には響かないだろう。
ホテルがハリボテになる瞬間が見えた気がする。どんだけ良い建築であろうと、どんだけ良い料理人だろうと、それをまとめあげるには、調和が大切なんだなと考えさせてくれる旅館でした。