金閣の見せ方は、ディズニーテーマパークにも使われているような気がする
この文章は、個人の思いつき100%です。なんの具体的資料にも基づいていません。
私はこの前、10年ぶりくらいに金閣寺に行ってきたのですが、東京ディズニーランド/シーと似ているところを感じたので、今回はそれを書き垂らしたいと思います。
金閣寺の拝観券を購入して門を入るところからはじめます。
門を入ると、左右が木々で覆われた参道を進むことになります。真っ直ぐ進むと、左側の木々がなくなり、前方を見晴らせるようになります。右側は依然として木々で覆われており、見晴らしが悪いままなので、パッと開けた左側に視線は誘導されます。
歩いていくと左手はかなり開けていきます。
このとき右を見るとこんな感じで、見晴らしの悪さ具合は変わらず、金閣は垣間見えますが、かなり木々によって目隠しされています。やはり視線は自然と開放的な左手に誘導されます。
左の開けたエリアを眺めながら右回りに歩いていくと、ついに金閣が現れます。本当に突然わっと現れます。しかし、ちょうど金閣と被る位置に、一本の木が植えられています。この木は、通路の左端、中央、右端、どこを歩いていても登場した金閣に被る位置にあり、おそらく意図的に「邪魔」になる位置に置いているのではないかと思いました。
さらに歩みを右回りに進めていくと、次第に手前の「邪魔」な木が左へ退いていき、同時にだんだんと金閣の全容を見渡せるようになっていきます。
手前の木を撒いたかと思いきや、今度は奥の島にある松の木が金閣に被ります。さっきよりは見える面積が大きくなったとはいえ、なかなか全容が見えません。なんてもどかしい。
参拝者が群がって写真を撮るスペースからだいぶ先へ進んだあたりになると、ようやく金閣の全体像を眺めることができるようになります(写真では行き過ぎて右側に松が被っていますが……)。
このように、金閣は、突然姿を現したかと思うと、一部が木で隠され、歩みを進めるごとにだんだんとその全容を見渡せるようになっていく、というような見え方をします。パッと目に入ったはじめの感動、しかしそれで終わらせることはせず、次第に全容が明らかになる演出によってワクワク感を継続的に与えてくる、そんな仕掛けがあるように思います。
ここまでくると、思い当たるものがあるのではないでしょうか。視界の解放による視線の誘導……一気に見せつつも少し隠し、次第に全体が見えるような仕掛け……東京ディズニーリゾートですね。前者の仕掛けはシーのミステリアスアイランドーマーメイドラグーン間などで見ることができ、後者の仕掛けはランドのワールドバザールやシーのアクアスフィア周辺で見ることができます。
ミステリアスアイランドからマーメイドラグーンへと抜ける道は、洞窟を通り、出たあとにくねっと左に曲がるようになっています。曲がり角周辺では、右斜め前方にアラビアンコーストが見えます。このとき左側がどうなっているかというと、洞窟の延長のような、ゴツゴツとした岩肌が依然として続いており、視界は右側に比べると悪いです(ただし、すこし岩の色や質感が変わるのと、若干草が生えたりしてます)。そのため、この抜け道を通ると、何となく閉塞的な洞窟から開放的に変化した右斜め前方を見てしまいます。
また、もしこの左側の岩がなかったら、既にマーメイドラグーンが見えるはずなので、この岩壁は目隠しにもなっています。
ミステリアスアイランドは、カルデラ内部にある周囲を無機質な岩で囲まれたエリアであり、対するマーメイドラグーンは、カラフルな色彩の、曲線溢れるエリアとなっており、両エリアは景観が全く異なっています。そのため、ミステリアスアイランドからマーメイドラグーンに抜ける際には、まずマーメイドラグーンのある左側ではなく、反対の右斜め前方に視線を誘導しているのだと考えられます。そしてその視線の先にあるアラビアンコーストは、褐色を基調としながらも、カラフルなタイルが部分的にあしらわれていたり、直線とドームの曲線が融合していたりする景観であり、ちょうどミステリアスアイランドとマーメイドラグーンの中間のような色合い・質感をしています。
まとめると、洞窟から出る→開けた右斜め前方を見ちゃう→そこにはちょうどいい緩衝材になるアラビアンコーストが→歩きながら左に視線が動く→マーメイドラグーン登場、のような視線の誘導があるように思います。
これは金閣寺の庭園で使われていた視線の誘導と似たような技法ではないでしょうか。開放的になった方を見てしまう、という目の動きの性質を利用した、巧みな誘導だと思います。
あともうひとつ、ワールドバザールのひと工夫も、金閣寺に類似していると考えます。
インパして赤レンガの小さなトンネルを抜けると、前方にシンデレラ城がわっと現れ、テンションが爆上がりするというのは、ランドに行ったことがある方なら共感してくれると思います。しかしこのとき、シンデレラ城は、ちょっとだけ見えないようになっています。上の方にアーケードが被ってちょっとだけ見えないようになっているのです。ですので、前へ前へと歩くごとに、だんだんとシンデレラ城の全体が見えるようになっていき、爆上がりしたテンションがさらに沸々と高まっていきます。
同じようなことはディズニーシーのエントランスにも言えるかもしれません。シーのアクアスフィアから、ミラコスタの下のトンネルを通って広場に出る道は、下り坂になっています。そのため、アクアスフィアからトンネルの向こうを眺めてもプロメテウス火山はあまり見えず、ハーバーとフォートレス・エクスプロレーションあたりが見えます。そしてトンネルの方へ進むにつれて、だんだんとプロメテウス火山が下部から順に姿を現します。
このように、メインをなかなか見せない、そして見せても一気に全容を見せることはせず、だんだんと見えるようにする、というのは、金閣寺の技法と似ているところがあるように思います。
なにかものを見せるときに、鑑賞者の目を誘導したり、もどかしさを刺激したり、高揚感を湧かせたり、様々な仕掛けや演出を駆使して楽しませるという、その計算高い営みは、とても素敵だと思いませんか……。鹿苑寺とディズニーと、どっちが先だとか、どっちがパクったとか、そんな野暮なことを言うつもりは更更無くて、以上に述べたことは全て(特に金閣寺は)個人的な考察に過ぎませんが、もし鹿苑寺とディズニーで、人を楽しませる演出に共通点があるのだとしたら、壮大なロマンを感じませんか……。