越前大仏ー実業家が残した迷建築の楽しみ方
越前大仏(清大寺)は、福井が誇るB級スポットだ。越前大仏といえば、ゴーストタウンと化した門下町や大仏の大きさばかり取りあげられがちだが、私はまた違った楽しみ方を提示したい。
ここは仏像もなかなかに面白いが、今回は建築に絞って書こうと思う。
この清大寺は、だれがどう見ても東大寺を模して造られている。木造の東大寺に対して清大寺の建物は鉄筋製であり、また種々の改変が加えられている。この「再現具合」と「改変具合」が個人的にツボなので、これから書き垂らそうと思う。
まず大仏殿を見てみよう。やはりはじめに目に付くのはこの圧倒的なバランスの悪さだ。なんとも言えない不格好さだ。明らかに内部空間を広くとることに全振りした感がある。この大仏殿も、おそらく東大寺大仏殿を模しているのだろう。しかし初層の軒の出を浅くし、限界まで柱を外側に配置したようだ。実在の建築にそんな改変をすればアンバランスになるのは当然だが、他にも理由があると思う。それは、原型となったであろう東大寺大仏殿自体が不格好だからだ。実は東大寺大仏殿は、江戸時代の再建時に財政難を理由に規模を縮小されたという経緯がある。その際、大仏だけは内部に収めなければならなかったため、建物の高さはそのままにして桁行だけを縮小した。そのため現在の大仏殿は不自然に縦長なデザインになっている。歴史に残る迷建築だ。
この清大寺の大仏殿は、見方によってはいい建物だ。もともと縦長だった東大寺大仏殿の初層の桁行を拡張したことで、少し均衡が回復したような気もする。初層の幅が大きいことでずっしりと構えた印象を纏っている。これも東大寺大仏殿に対するひとつの処方箋なのかもしれない。
ここから細かいところをどんどん見ていく。
これは大仏殿のあちこちについている組物「風」のものである。形的には出組に近い。しかしこの組物はつっこみどころ満載である。まず、斗を3つ並べているにも関わらず、真ん中以外の2つは使っていない。ふつう平三斗の上には直接桁が乗るか、舟肘木を挟んで桁がのる。面と線で言えば、線がのるものだ。言葉で説明してもおそらく分かりにくいので、画像を見てみよう。
これが通常の出組だ。出っ張った平三斗の上には舟肘木がのり、丸桁を支えている。次に清大寺大仏殿の出組「風」のものを見てみよう。
なぜか平三斗に垂直方向の材を支えており、両隣の斗と床板の間には空間があり、何も支えていない。
あと突っ込むとすれば、貫の端っこである木鼻に食い込ませる形で、直接肘木を置いている。先に載せた出組の画像でもわかる通り、普通は肘木との間に斗をかませるものだ。
筆者はもちろん、これが構造上は大して意味を持たない装飾であることは分かっている。が、分かった上で細かく見ていくと、ここの建築は面白いので伝えたいのだ。
もっと細かいことを言おう。
清大寺の建築は東大寺を模しているため、様式的には大仏様にあたる。貫を再現した箇所も多くあり、大仏様を意識してのであろうことは明らかだ。大仏様の斗といえば、「皿斗」である。これは私にとっては激アツである。皿斗とは斗の下に皿が敷かれたようなデザインで、飛鳥時代に流行したものの廃れ、約600年の時を経た鎌倉時代に、大仏様建築で復活した意匠だ。つまり、中国から建築技術が流入した当初だけ流行る魅力的な造りだ。筆者は清大寺の斗を見て、「え〜皿斗じゃないのか〜もしかして細かすぎて知らなかったのかな」と落胆していたが、陶板画的なものを飾っている建物に行ったときに「あっ!!!!」と叫んでしまった。
皿斗である。設計者は知っていたのである。しかもこの平三斗は舟肘木を挟んで桁を支えている。ということは他の建築のシンプルな斗はあえて省略したものなのだろう。この組物を見て私は悟った。清大寺は、ここがおかしい、あれが再現されてない、胡散臭い、などと貶めて楽しむ類のものではなく、何を再現し、何を省き、最終的なこの意匠設計を生み出したのか、その巧みさ・偉大さを楽しむものなのだと。筆者はもともと、実業家が作った宗教施設はなぜ胡散臭いのか、という記事を書こうと思っていた。しかしこの組物を見て、清大寺はその類には属さないと痛感したのだった。
次に五重塔の軒下を見てみよう。筆者ははじめ、「なんてすっきりした軒下構造だ!古代建築みたいだ!」と思った。なんか寂しいくらいにスカスカな感じがしませんか。
この組物はおそらく、東大寺大仏殿を模している。写真はないが、この軒下に天井を張ってすっきりさせたデザインは東大寺大仏殿の初層のデザインと同一で、ぴったり重なる。ここがアツい。わかりますか。「東大寺大仏殿を見て、五重塔を作った」ということだ。実在の仏堂を仏塔に魔改造したものということだ。もう、あつすぎる。ロマンしかない。
四手先より上が天井裏に隠れるところも東大寺大仏殿さながらだ。また柱と柱の間上方にある中備も見逃せない。大仏様ならではの平三斗だ。これを入れることで一気に装飾性が増す。強い東大寺大仏殿リスペクトを感じる。
本来ここから話をはじめるべきだった。参拝者がまず最初に通るのはこの南大門だ。これは東大寺南大門を模して造られており、金剛力士像も鎮座している。が、いくつか改良点が見られて興味深い。まず細かいことだが2階に手すりのようなものが見えるのがわかるだろうか。実際に上がれるのかはわからないが、二層部分の外に床を回しているのだ。これは東大寺南大門にはないデザインだ。次に門の中に立ってみよう。
めちゃくちゃでかい。とにかく規模がすごい。この写真では左側が外、右側が内である。内側を見ると天井が張ってある。これが1番の残念ポイントだ。東大寺南大門のいいところは天まで登る大迫力の貫だろ!天井裏にしてどうすんだよ!となってしまった。なぜ醍醐味を天井で隠してしまったのだろう……。
ここまでどれくらいの人がついてきているのか分からないが、語り始めたらきりがないので、この辺でやめておく。越前大仏は迷要素たっぷりでいいところなので、ぜひ行ってみてほしい。