シアー・ハート・アタック(1974)を布教する

 Sheer Heart Attackは1974年にリリースされた、Queenの3枚目のアルバムです。あの名高いKiller Queenや、最もライヴで演奏されたと言われているNow I'm Hereが収録されていることでも有名なアルバムです。あと、同じSheer Heart Attackという名前の楽曲が、1977年のアルバムNews Of The Worldにあります(紛らわしい)。
 個人的には、Queenのアルバムで1番好きなのは何かと聞かれたら、めちゃくちゃ迷いますが、このアルバムを答えるかなぁ〜、というくらいには好きなアルバムです。別に好きな曲が多いわけでもなく、好きじゃない曲が少ないというわけでもないのですが、途中で聴くのをやめるとか、飛ばすとか、飽きてくるとか、そういうのが一切なく、頭から聴き始めると、つい通しで終わりまで聴いてしまう、そんなアルバムです。

 音楽の素質も教養もない私ですが、あまりに好きすぎるので、一曲ずつ好きなところを書き垂らします。

1.Brighton Rock

 出だしからぶっ飛ばしてくるQueenらしさ全開の曲です。そして5分10秒ある曲のうち、歌詞のある部分が2分もないという、ギターソロ長すぎの、Brianらしさも全開の一曲です。歌詞はラブコメ?です。
 遊園地の賑やかな音から曲がスタートし、愉快な口笛とともに、徐々にBrianのギターが聴こえてきて、Freddieの美しすぎる高音が始まります。ここで気分が爆上がりします。Brianの複雑に重なり合うギターの音色は、聴いていて気持ちがいいし、なにより器用に高音と低音を歌い分けるFreddieの軽快な声に、気分が乗せられて一気に引き込まれます……。個人的には、たびたび入るFreddieの巻き舌が好きです。そして意外といいのがRogerのドラムとDeacyのベースです。BrianのギターとFreddieの歌声が凄すぎて、そっちに気を奪われがちなのですが、2人の演奏も意識して聴くと物凄くいいんですよ……。
 あと、ついこの前知ったのですが、曲のはじめの口笛は、1つ前のアルバムQueen Ⅱの、Seven Seas Of Rhyeの終盤なんですね。よく聴いたら本当にそうなっていて、ほんとや!!!ってびっくりしました。
 冒頭でギターソロが長いと書きましたが、ライヴではさらにギターソロが延長されて、20分くらいになります。そしてやがてギターソロは独立して、ギターソロの時間というコーナーが成立します。あと、ライヴでは、歌詞を正しく歌った回の方が少ないんじゃないかというくらいに、いつもどこかしら間違ってます。でも、それがいいのです。2回とも It's good to know there's still a little magic in the air. と歌ってしまうのが、とても心地よくていいのです。Freddieが歌詞を間違えるのは、大体Brianが作った曲のような気がします……。White Queenとか、Tear It Upとか。


2.Killer Queen

 言わずと知れた初期クイーンの名曲です。題名がまずかっこいいですよね……。キラー・クイーン……。貴族感が炸裂した、Queenというか、Freddieらしい曲だなぁ〜といつも思います。終始歌声と演奏が華麗で上品なんですよね、、、Killer Queenは、直訳すると"殺し屋女王"になりますが、"男を落とすことに長けた魅惑の女"みたいな意味?だと勝手に解釈しています。そんな歌詞にぴったりな品のある演奏な気がします。
 ライヴだと、メドレーの中の一曲になることが多く、Death On Two Legsから続いたり、I'm In Love With My CarやBicycle Raceに繋がったりして、どのパフォーマンスもすごく好きです。


  • Tenement Funster

 このTenement FunsterからLily Of The Valleyまでの3曲は、途切れることなくメドレーになっています。このメドレーがめちゃくちゃいいんですよ!! 特に真ん中の Flick Of The Wrist が大好きです。
 話をTenement Funsterに戻すと、メドレーの入口となるこの歌は、Roger作詞作曲の、Rogerボーカルの曲です。なので、もっっっのすごく渋い仕様になっています。まさに、Roger Taylor !!!って感じの一曲です。Rogerらしくてとても良いのですが、私はいつも、とにかく次のFlick Of The Wristが待ち遠しくて、上の空で聴き流してしまいがちです……(美術館で、向こうにお目当ての絵画が真っ先に見えてしまい、そこへ向かうまでの経路にある、たしかに良い作品たちを、何となく上の空で、矢継ぎ早に消費してしまうような、あの感覚に似ていますね)。


  • Flick Of The Wrist

 Freddie作の、めちゃくちゃ好きな曲です。もう始まりから終わりまで、どこをとっても最高に良いです。歌詞の内容は、当時のレコード会社への不満でしょう。搾取の有様や非力なバンドの姿を、包み隠すことなく直球で表現しており、出だしが、「サインしなければ背骨を外すぞ」「目を眩ませてやろうか」ですから、よく許可が下りたな……というくらいに不穏で露骨な歌詞をしています。私が特に好きなのは、Seduce you with his money-make machine から始まるパートです。豪快な歌詞と歌いっぷりが堪らんのです……。そして、ギターの演奏が、よく聴くと、途切れそうで途切れない、なかなかに面白い音筋を辿っているのも分かります。
 ライヴでもよく演奏されていた曲なのですが、Freddieの歌声のまぁ力強いこと。ライヴによって色々なアレンジが効いていて、すごくいいのです。


  • Lily Of The Valley

 2曲激しい曲が続いたあとにくる、静かな落ち着いた曲で、とても癒やされます。冒頭の鋭いギターの音色がまず印象的で、さすがレッドスペシャル(Brianのハンドメイドギター)だなぁ〜と感じさせてくれます。そして続くピアノの静かな音色に、Freddieの優しい声が乗せられて、とても心地がいいです。メドレーの締めくくりにぴったりな楽曲だと思います。
 邦題では「谷間のゆり」となっているのですが、lily of the valleyでスズランという意味の1つの単語らしく、誤訳じゃねぇかという話でも、有名な曲です。ちなみに、Queenの邦題は、ツッコミどころ満載なので面白いです。それだけでもnoteが書けそうですが、例えば、最初のアルバム"Queen"は、「戦慄の王女」と訳され、Lazing On The Sunday Afternoonは「うつろな日曜日」と訳され、Don't Try Suicideは「自殺志願」と訳されたりしています。「愛という名の欲望」とか「地獄へ道づれ」みたいな、いい訳やな!!ってなるのもあるんですが……。おそらく名訳の方がレアケースです。


  • Now I'm Here

 Queenのライヴで最も演奏されたと言われている曲です。1番演奏されているのはBohemian Rhapsodyかと思いきや、Now I'm Here方がリリースがはやく、ほぼ毎回のライヴで演奏されているので、こっちが最多らしいです。ゴリゴリのロック!!って感じの曲で、ライヴではよく、途中からDragon AttackやPut Out The Fireに移り、またNow I'm Hereに戻ってきて締める、という構成がとられることが多く、とても良いです。
 個人的には、Down in the city just Hoople and meという歌詞の語呂の良さが好きです。
 この曲の邦題は「魅惑のロックンロール」となっており、これまたよく分からん訳です。ちなみにKeep Yourself Aliveには「炎のロックンロール」という邦題がつけられており、両者ともに邦題と原題・内容の間に関連性が全くないため、どっちが炎でどっちが魅惑やったか、とてもややこしいです。


  • In The Lap Of The Gods

 アァァァーーーーーーという強烈なRogerの甲高い声からスタートする曲です。中盤でもしっかりとRogerの大迫力の高音が奥で鳴り響いていて、ライヴでもちゃんとこの高音を歌い切るのですから、すごいなぁ〜と、いつも思います。
 Freddieの声が独特な、くもったような聴こえ方をするので、どうやって収録したんだろう、と思ったりもします。似たように独特な音声に聴こえる歌として、Lazing On The Sunday Afternoonでは、ヘッドフォンをバケツに入れて、その音を拾った、と言われているので、何か特殊な録音方法をとっているのでしょうか。
 題名の意味としては、"運次第" のような意味らしいのですが、邦題は「神々の業」とされており、なんだか意味を外して仰々しい気もしますが、曲の印象にはぴったりな気もします。とにかく神々しい雰囲気は曲中ずっと漂っているので。


  • Stone Cold Crazy

 比較的ゆったりとした前曲から、仕切り直すかのように始まる激しいメタルです。この曲の配置にまたセンスを感じるというか、いいんですよね〜。
 スラッシュメタルがまだなかった頃に先取りして作られたスラッシュメタル、とよく言われる曲です。そう言われるだけあって、物凄いスピードで歌い上げられます。レコード版でも、聞き取るのがやっとなくらいに速いのですが、ライヴだとさらに高速演奏になります(特に1977年のヒューストンライヴ)。私はいつも、鬱っぽいときに聴いては、気持ちを晴らしています。
 あとこの曲は、BBC Sessionなど、結構色んなバージョンが出ていて、いろいろと聴き分けができるのも魅力だと思います。
 そして、この曲は、1992年のフレディー・マーキュリー追悼コンサートでも、MetallicaのJames Hetfieldをリードボーカルとして演奏されているのですが、そのバージョンがめちゃくちゃいいのです。めっっっちゃいいのです。個人的には、Queenの楽曲をFreddie以外が歌ったバージョンというのが、あまり好きではないというか、やっぱりQueenのリードボーカルはFreddieじゃなきゃしっくりこないなぁ〜みたいに思っているのですが、このパフォーマンスだけは例外で、めちゃくちゃ好きです。なのでそのバージョンも貼っときます。


  • Dear Friends

 Queenでは珍しく、ギターが一鳴もしない、ピアノを基調とした曲です。ギターが全くないのは、ほんっっっとに珍しいです。Brian作です。Brian本人作だからこそ、ギターなしで通った、とも言えるかもしれません。なんせコード進行が簡単すぎるだけでもイチャモンをつけるBrianですから……。他のメンバーが作曲して、「ギターないよ」なんて言ったら、絶対許さないでしょう。歌詞的には、失恋した友人に語りかけるような感じでしょうか(自信ない)。どこかもの寂しさを感じてしまうような、薄暗い雰囲気の曲ですが、どこかうっすい光も感じなくはないような、そんな繊細な一曲です。当時病気で入院していたBrianの、不安で繊細な気持ちが反映されているような気さえしてしまいます。


  • Misfire

 めっっっちゃお気に入りの曲のひとつです!!記念すべきJohn Deacon第1作目となる曲です。つまり、ディーキー伝説のはじまりです。Freddieも、Johnが作曲に参加してくれたと喜んでいたと、聞いたことがあります。曲調は、それまでのQueenにはなかったような、超新しいスタイルで、Queenってこんなんもいけるんや、となるような新感覚の仕上がりです。弾むように明るく、聴くだけでなんとなく気持ちがノッてくるような、心をグッと掴んでくる曲です。何度聴いても楽しい気分にさせてくれるんですよ……。次の年にYou're My Best Friendを書いて大ヒットを飛ばすような、溢れる才能を感じずにはいられない、そんな記念碑的なデビュー曲だと思います!ただ、歌詞が……。Misfireは''不発"、“発射失敗”というような意味ですが、底抜けて明るい曲調に反して、どぎつく卑猥な歌詞になっています……。なぜだ!!と思う一方で、Johnというキャラクターを、よく表している作品でもあるなぁ〜と、最近は思ったりしています。


  • Bring Back That Leroy Brown

 あのリロイ・ブラウンを連れ戻せ!!リロイ・ブラウンとは、ジム・クロウチ作の楽曲 "Bad, Bad Leroy Brown" に出てくる主人公の悪党の名前です。ジム・クロウチは、1973年(アルバム発表の前年)に飛行機事故で亡くなっています。この曲は、追悼の歌という意味合いがあると言われています。
 個人的には物凄く好きな歌です。バンジョーやウッドベース、ジャングルピアノなど、普段のQueenでは聞かない楽器がうち鳴らされ、とってもリズミカルなカントリー風に仕上がっています。ライヴではメドレーの〆として演奏されることが多く、Brianがウクレレに持ち替えてソロを披露するところが印象的です。観客からも軽い歓声のようなものが上がります。弾き方が可愛いんですよ……。やけに弾きにくそうな……。笑
 あと、個人的にアカペラバージョンがとても好きなので、それも貼っときます。


  • She Makes Me

 Brian作の、なんか不思議な歌です。少し不気味と言っても怒られないかな?というくらいに、なんとも言えない不安な雰囲気が漂っており、私はちょっと怖く感じてしまいます。歌詞も意味深で、何を表しているんだろう………と考えてしまいます。Sheって誰なのか、loveって何なのか、その分からなさも、怖さの根源なのです。最後はBrianのため息で終わります。羽生結弦選手の逆ですね。やはり病床のBrianが書いた曲と言われているので、当時の心境がそうしたのかも?しれないです。それなら、It made him so. ですね。


  • In The Lap Of The Gods…Revisited

 まだWe Are The Championsがなかった頃は、この歌が、ライヴの最後に観客皆んなで歌う定番ソングでした。が、しかし、We Are The Championsによって完全に取って代わられてしまったかというと、そうでもなくて、その後もライヴの序盤で演奏されたりしています。
 しかしやはり締めの一曲というイメージがあるからなのか、あぁ終ってしまうなぁ〜と、どことなく寂しさを感じてしまいます。アルバムを通しで聴いた、その余韻に浸りながら締め括るのに、本当にちょうどいい一曲だなぁと思います。皆んなで歌う系ですから、全体的に温かい明るさもあり、そして何度も何度も繰り返される歌詞は、アルバムやライヴを思い返しながら、改めてQueenの世界観に浸るのにぴったりなのです。

以上


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