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カスタマーサクセスにおける現状のキャリアパスと可能性

近年、「カスタマーサクセス(Customer Success)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。SaaSビジネスの拡大とともに、導入後の顧客の成功体験をサポートする専門部署・専門人材の重要性が認識されつつあります。一方で、まだ業界全体としては定義やノウハウが確立しきっていない部分も多く、新しいキャリアとして注目を集める一方で「本当にどんなスキルが必要なの?」「どんな将来性があるの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、カスタマーサクセスの現状の市場感と、そこで求められる人材像・今後の可能性について解説していきます。



1. カスタマーサクセスとは

カスタマーサクセスは、SaaSをはじめとするサブスクリプション型ビジネスにおいて「顧客が製品・サービスを活用し、目指す成果(ゴール)を達成できるよう伴走・支援する」活動を指します。顧客との長期的な関係構築を前提とするサブスクリプション型ビジネスでは、解約や継続率が売上に直結します。そのため、サービス導入後も顧客が満足し、成果を出し続けることが、事業の成長に直結するのです。

主なフェーズとしては、

・オンボーディング(Onboarding):導入初期、ツールの初期設定や基本的な使い方をサポートし、早期に“使える”状態にまで導く
・アダプション(Adoption):顧客が望むKPIや目的を達成するために、運用方法や活用アイデアを提案し、定着を促す
エクスパンション(Expansion):利用規模を拡大する(アップセルやクロスセル)ことで、さらに高い成果や新たな価値を提供する

といった流れで顧客を支援するのが典型的です。


2. カスタマーサクセス人材への需要が高まる背景

(1) SaaSビジネスの拡大
近年、ソフトウェアは「買い切り」から「サブスクリプション(定期課金)」へと急速にシフトしています。とりわけ日本でも、クラウドサービス・業務システムから個人向けアプリケーションに至るまで、サブスクリプションモデルが広がってきました。その結果、事業者にとっては「契約を継続してもらう=顧客満足度を高め続ける」ことが最重要課題となり、カスタマーサクセス人材に注目が集まっています。

(2) 「営業=新規獲得」だけでは不十分な時代
従来の“営業”は新規顧客を契約させるところまでがミッションでした。しかし、サブスクリプションモデルでは導入後のエンゲージメントも成長の鍵となります。新規獲得だけでなく、長期利用・拡張が売上の大部分を占めるようになると、契約後の支援体制が弱い企業は思うように収益を伸ばせません。
結果として「顧客が離脱しないように伴走して成果を出させる」カスタマーサクセスの存在価値が高まり、その分業務量も増大し、経験者や即戦力が強く求められるようになっています。


3. カスタマーサクセスにおける主要な業務モデル

カスタマーサクセスと一口にいっても、実際には企業規模やサービス特性に応じて、担当者のアプローチ方法はさまざまです。代表的には下記の3つに分類されます。

  1. ハイタッチ(High Touch)

    • 客単価の高い大手顧客や、特殊な要望をもつ顧客を対象に“専任担当者”が深く関わり、一気通貫で成功をサポートする

    • 具体的な例:オンボーディング時のキックオフMTG、詳細な利用状況のヒアリングや課題解決の提案など

  2. ロータッチ(Low Touch)

    • ハイタッチほど専任担当者はつかず、ウェビナー・オンラインセミナー・マニュアル動画の提供など、ある程度“定型的”なサポートを集団向けに行う

    • 具体的な例:導入時の操作説明動画の共有、定期的なメール・ウェビナーによるフォロー

  3. テックタッチ(Tech Touch)

    • 担当者を配置せず、メルマガ配信やプロダクト内のポップアップ通知などITツールを活用し、“自動的”に顧客を支援するモデル

    • 具体的な例:ユーザーの利用履歴を分析し、必要に応じて自動メッセージやリマインダーを出す

この3形態の使い分けや組み合わせによって、リソースを最適に配分しながら顧客の成功確率を最大化しようとする流れが主流になっています。


4. カスタマーサクセス人材のキャリアパス

(1) ハイタッチで経験を積み、マネジメントへ
多くのカスタマーサクセス担当者は、顧客と直接コミュニケーションを取りながらプロダクトへの理解や提案スキルを磨きます。営業やコンサルの経験があれば、そのスキルを活かしてキャリアをスタートしやすいでしょう。
ハイタッチ領域で成果を出した先には、マネジメントポジション(チームの目標管理や育成を担う)などの道が開けます。

(2) CS Opsや事業開発へのシフト
実際の顧客対応を経験し、顧客ニーズや課題を深く理解した上で、カスタマーサクセス業務の細分化や標準化を行い、より多くの顧客を効率的にサポートできる環境を整えるCS Opsや、顧客の声を元に新機能・新規事業の創出を推進する事業開発のポジションに移る方も増えてきています。

(3) 他のSaaS製品でのハイタッチCS
一つのSaaSで顧客支援に従事した後、別のSaaS企業やプロダクトへ移る方も増えています。様々な関係者を巻き込みながらのプロジェクトマネジメントや解約抑止・エクスパンションに向けたアカウント管理の力は、新たな製品のCSにおいても大きな武器となるでしょう。


5. 現状の課題と今後の可能性

(1) 実務経験者の不足
カスタマーサクセスは比較的新しい職種であるため、実際に導入〜継続支援の成功事例を積み上げた即戦力人材はまだまだ不足しています。そのため、フリーランスや業務委託の形態でも80万円/人月以上の単価を提示して獲得したい企業も増えてくるなど、「経験を持つ人」には大きな機会が生まれています。

(2) 業務切り分けの進展と多様な人材の活用
「何でもできるハイタッチ担当」だけに業務が偏ると、リソース不足や品質のばらつきが問題化しやすくなります。一方、各フェーズを標準化して切り分けることで、オンボーディングのみに特化する人材や、セミナー運営・動画作成を得意とする人材など、さまざまな形で活躍の場が広がります。
さらに、育児や他の仕事と両立したい方でも一部の工程なら稼働できるようになるなど、多様な働き方の受け皿としてカスタマーサクセスが今後機能していくと考えています。

(3) BPO市場の更なる拡大
企業が自社で抱えきれないカスタマーサクセス業務を、BPOサービスに委託する動きも盛んになっています。特に複雑なオンボーディングフローを整理し、そのうえで必要部分を切り出して外部に委託することで、高品質な顧客サポートを維持しながら自社リソースを有効活用できるというメリットがあります。
今後はこうした外部リソース活用の流れが加速し、カスタマーサクセスBPOの市場も更に拡大していくと考えています。


6. まとめ

カスタマーサクセスの概念は年々浸透しつつあり、特にSaaS領域では導入・活用の要として欠かせない存在になっています。しかし、まだ“若い”領域ゆえに即戦力経験者は不足しており、その反面、市場からのニーズは高まる一方です。ハイタッチからCS Ops、さらに新規事業開発へのステップアップなど、多彩なキャリアパスがある点も魅力といえます。

これからカスタマーサクセスの世界へ足を踏み入れる人にとっては、新しいロールモデルを創りあげるチャンスが大きいでしょう。営業やコンサル出身者はもちろん、コミュニケーション力やホスピタリティに自信がある方、ITの知識を活かしたい方など、幅広い人材にとって可能性を秘めた分野です。
自社のプロダクトや顧客に真摯に向き合い、顧客が本当に成し遂げたい成功を導くこと。それこそがカスタマーサクセスの要諦です。市場としても今後さらに拡大が予想されるため、キャリアを模索している方はぜひ一度、カスタマーサクセスという道を検討してみてはいかがでしょうか。

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