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むっつり君バンザイ

 恋愛に積極的でない若い男子が増えているとか。世間では「草食系」と呼ばれ、何かと取沙汰されているらしい。しかしそれのどこが問題なのか。私にはよく判らない。

 出生率低下を憂うのなら、子供を育てやすい環境や生活基盤を築くことが困難な、現代ニッポンの社会的システムをこそ、問題とするべきではないか。
それに男の生殖能力は、女と違って50代、60代でも現役だと聞く。若い男ががんばらないのなら、おじさま達ががんばれば良いのだ。ナイーブでセンシティブな若者達のことは、放っておいてあげれば良いのにと思ってしまう。
 しかし、彼らは本当に、恋愛に興味がないのだろうか。

 私の職場には、草食系男子がウヨウヨと、それこそ掃いて捨てるほど生息している気がする。もちろん一人一人の恋愛観を聞いて回ったりはしないので、本当のところはわからない。けれど私にはそう見える。勝手な偏見かもしれないが、コンピュータ関係の仕事に就くような輩(やから)は、リアルな現実よりも、バーチャルな世界の方が、よほど気楽で生きやすいと感じている節があるからだ。

 目の前にある人間関係よりも、パソコンや携帯電話を介してアクセスする無味無臭の関係に、より多くの時間を割いて満足している。今や恋愛でさえ、ゲームで体験できる時代だ。思い通りにならない生身の異性に振り回されるより、いつでも好きな時にリセットしてやり直せる、ゲームの方が楽しいと感じる「オタク」君たち。ニアリーイコール「草食系」男子、という気がして仕方がない。

 私が密かに、その筆頭と見なしていたのは、システム開発チームの主任、Sさんだった。
2年ほど前のこと、携帯電話のゲームにハマり、駅から徒歩で会社に行き帰りする間にも携帯の画面から目が離せなくなった。あげくの果てに車と接触事故を起こし、会社から注意を受けたという伝説の持ち主だ。

 彼はもう若くはない。もしかしたら40近いのではあるまいか。主任に昇格してソコソコの給料をもらっているはずだが、恋人はパソコンと携帯電話、という有様では、たぶん一生結婚は無理だろう。私を含め、周りは皆、そんな風に憶測していた。

 ところが、である。

 何と先日、彼が会社に結婚届を出したというニュースが、職場に一大旋風を巻き起こした。しかも「出来ちゃった婚」だと言うのだから、驚きだ。職場の飲み会などでも、女の子には全く興味がないような顔をして、実は彼はむっつりスケベエだったのだ。何だ、オタク君も、やる時にはやる、大したものだと思った。

 別に恋愛に積極的でなくても、たった一人、共に暮らせると思える異性に巡り会えば結婚は出来る。
終わりよければ全て良し、である。

- fin -
2011.12 著

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