赤いキツネと緑のタヌキ
赤いキツネは考えていた。
暗い。ここはひどく暗い。見上げても星さえ見えない……。
でも私の中には、あの素晴らしい火星の景色が大切にしまわれている。赤い大地。茫漠たる砂の海。黒い空に浮かぶ、宝石さながらの星々……なんて美しいのだろう。
きっと大丈夫、今度も私が選ばれる。緑のタヌキなんかに負けるものか。
緑のタヌキは、隣にいる赤いキツネを横目で見ながら考えていた。
全く、分が悪いというものだ。一般人は木星なんかに見向きもしない。ガスと液体だけで陸地がないため、星の上に降りられなくて景色もつまらない、というのがその理由だ。
それでも、地球では枯渇しかかっている様々な資源を得るために作られた、巨大な工業施設に興味を持つお客様も、たまにはいる。
そうだ、諦めずに一生懸命がんばろう。
赤いキツネと緑のタヌキは考えた。
それにしても、いつまで待てば良いのだろう。最近の超小型ロボットには、半永久的に作動し続ける動力回路が組み込まれている。だから、使命を果たせないまま壊れてしまうという心配は、ないのだけれども……。
「あーあ。給料日まであと三日かぁ。仕方ない。今日もカップ麺で食いつなぐか」
声が聞こえ、戸棚の扉が開く音がした。キツネとタヌキが身構える。果たして、二匹が入っているカップ麺が取り出される気配。
とうとうこの瞬間(とき)が来た!
カップ麺の蓋がペリペリとはがされるのを待ちかね、二匹は外に飛び出した。
「なっ、なっ、何だお前たちは?!」
驚く男の目の前のテーブルで、キツネとタヌキは並んでぺこりと頭を下げた。
「おめでとうございます! お客様は、○×食品スペシャルキャンペーン、『3008年宇宙の旅プレゼント』にご当選されました!」
「つきましては、今から私たちがお見せする映像をご覧になり、旅の目的地を火星か木星のどちらにするか、お選び頂けますでしょうか?」
- fin -