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辺境の惑星

(な、何だこれは……)
 ビリーは黄金のビリケン像を眺めて唖然としていた。
なぜなら、少しつり目でユニークな顔をしたその像が、自分にそっくりだったからだ。
上に掲げてあるプレートの文字を見て、彼はさらに驚いた。
〝幸運の神様〟だって? バカな!

 周りの人々は彼におかまいなく、ビリケン像の足の裏を触ってキャアキャア笑ったり、神妙な顔つきでブツブツつぶやいたりしている。
彼らにはビリーの姿が見えていないのだ。
 ビリーは、約六千万光年の彼方から地球にやって来た、異星人だった。
その目的は……。

(おい、まだかい? ビリー)
 上空三千メートルに浮かんでいる宇宙船から、仲間がテレパシーで呼びかけてきた。
(あ、ああ……今、探っているところだ)
(見込みがありそうか?)
(う〜ん、何とも言えないな。もう少し待ってくれ)

 ビリーは、ビリケン像の下の説明を読み、考え込んだ。
〝百年ほど前、アメリカの女性芸術家が夢の中で見た神様がモデルだ〟と書いてある。
(確かに、その頃にも一度来て、予備調査のため原住民の一人と精神的な接触をした。それが、こんなことになるとは……)

 ビリーは可笑しくなり、ビリケン像を一生懸命に拝んでいる地球人たちを見回した。
「バレンタインの告白が成功しますように」
「宝くじが当たりますように」
「家族みんなが健康で幸せに暮らせますように」

 人々がささやかな幸せを願う気持ちを、ビリーは理解できた。
ビリーの種族と地球人の精神構造が、よく似ていたからだ。
この広い宇宙では、めったにないことだ。

 このような種族を探し出し、母星に報告することこそ、ビリーの仕事だった。やっと手柄を立てるチャンスが巡って来たのだ。それなのに、ビリーの心は浮かなかった。

(俺のせいで植民地にされるとも知らないで、なんか、哀れだよなぁ……)
 その時、頭の中で、すぐそばにいた男の心の声が聞こえ、ビリーはハッとした。
(ビリケンさん、俺、就活中なんだ。いい仕事が見つかるよう、よろしく頼むよ)

 ビリーは男の若々しい顔を見つめ、そして窓の外の青い地球の空を見つめ、考えた。
(そうだな……俺も転職しよう。ちょっとデータを改ざんして、この星の記録を消してから。なぁに、こんな辺境の惑星、データがなければ誰も存在すら気づかないだろう)

 ビリーは晴々とした気分になり、宇宙船に帰って行った。
(きっとうまくいくさ、俺の転職も。何しろ俺は、〝幸運の神様〟なんだからな!)

- fin -

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