人の手の入った風景を原生に… 取り戻された姿ってどんなだろう?
のどかに広がる自然の風景… とは言え、実際は人の手が入り、都合よく整備された景色がほとんどなのではないでしょうか?
ヨーロッパ屈指の日本人街のあるデュッセルドルフの近郊、のノイス郊外に、自然と芸術の併存を理念として建てられたインゼル・ホンブロイヒ美術館(Museum Insel Hombroich)はあります。
広大な野外美術館の敷地内にはパビリオンと屋外展示品が点在、古代オリエント、アフリカ、オセアニア、中国漢唐時代、ヨーロッパ近現代絵画彫刻などが展示されています。
1987年にオープンした野外美術館はかつての農地を水辺の草地という原生の姿に戻していきます。
自然と芸術をできる限り体感してもらうため、ここにはバリアフリー施設がありません。(とは言え、車椅子やベビーカーも入場可)
入場する時も上着や食べ物などちょっとしたハイキング装備があると便利です。(但し、ペットやレジャー用品、過剰な装備の持ち込みは禁止)
実はこの美術館、入場者向けに無料で食事が提供されているので、手ぶらで行っても大丈夫。(ですが…ご利用の際は是非ご寄付をご配慮ください。)
私はここを初夏の午後遅くに訪れたのですが、他に人影もなく、ヨーロッパ特有の夕暮れ前の黄色い日差しを受け広がっている原野に、現世を越えたような不思議な印象を受けました。
施設内に作品の解説といったものはないので、作品の解釈も自由。入り口で貰った地図を頼りに敷地内を思うままに散策します。日本の安藤忠雄氏の作品もあるそうなので、訪問時には探してみてください。
インゼル・ホンブロイヒ財団は2020年にSparkassen-Kulturstiftung Rheinland(ラインラント貯蓄銀行文化財団)の賞を受賞しています。
この地域にはかつてNATO軍のロケット発射基地があり、現在はアーティストや学者といった方々に居住や活動の場所として提供されています。
ここでの活動には日本人のアーティスト、Nishikawa Katsuhito氏という方が所属なさっていて、旧基地の跡地施設にアトリエを構え活動していらっしゃいます。
以前お話をしたイギリス人男性が、自分の出世地はこの近くのメンヒェングラートバッハ(Mönchengladbach)だと言っていたのですが、詳しく聞いてみたら、父親が英国の軍関係者だったとか…
歴史って、何気ない時にふと顔を見せてくれることがあります。
なかなか行けるところではないかもしれませんが、街の近くにありながら、原生に触れる機会がここにあります。
(2000年の回想録)